外見のことを直接言うのは日本人ならではの文化?
――日本だと「イケメンですね」「ハンサムだね」と言うように、英語圏のカッコイイなと思う人に会ったら、なんと言葉をかければいいですか?
アンちゃん:直接!? 「You're handsome.」とか? 絶対それは言わんね!
――あはは! カッコイイと伝えたい時はどうすればいいんですか?
アンちゃん:え~、直接言わんよ~。
――言わないんですか(笑)? 日本はけっこう気軽に「君、カッコイイね」とか言いますけどね。
アンちゃん:え~、やめて(笑)。うーん、直接好意的な言葉をかけるのは、なんとなく全部告白みたいな感じになるんよ。私も言ったことないね。
――友達とかに「カッコイイ」や「カワイイね」と言葉をかけることもないんですか?
アンちゃん:本人じゃなく、友達に「He's so cute.」と言うことはあるけど、直接本人には言わない。日本人は女性同士でも言うよね。
私は会う人に「カッコイイ」とか「オシャレ」とかときどき言われるけど、向こうでは初対面で言うことはあんまりないと思う。
友達だったら、「髪型カワイイね」や「そのコーディネートいいね」とかは言うけど、初対面は絶対に言わない。不思議ね(笑)。
――それも文化の違いかもしれないですね。
アンちゃん:あと、これは日本でも失礼な場合もあるけど、挨拶みたいに「老けた?」とか「太った?」とか言うでしょ? それは向こうでは絶対にないよね。
友達が日本にきて1回泣き出したんよ。理由を聞いたら、「だって、今日一日中『太った?』『疲れた?』『老けた?』って言われたから、アメリカに帰りたい!この国は嫌だ!!」って言ったんよね。
「なんで日本人はこんなに酷いこと言うの?」と言うから、「いや、たぶん挨拶みたいなもんだよ」と伝えたけど、「でも酷いよ!こんなこと1日で言われると嫌だ」と言っていた。
「体に気をつけて」もよく言うよね。「私は病気じゃないのに、なんでみんなこんなに心配しよるの?」と友達に聞いてみたら、挨拶だと言われて納得した。
――芸能人に向かって、日本だと「キャー!カッコイイ~!」と言ったりするじゃないですか。もし、英語で芸能人に向かって「キャー!」の後に叫ぶとしたら、それに当てはまる言葉は?
アンちゃん:ちょっとふざけている感じが入っても良ければ「I love you!」「I need you!」とか。一番は相手の名前が多いと思うね。日本人は何て言う?
――名前も叫びますけど、「カッコイイ~!!」「大好き~!」とかも言いますね。
アンちゃん:それはないよね。「You're cool! You're cool!!」は絶対に言わない(笑)。面白いね、そういうの言われるといろいろ考えるきっかけになる。
キレイな女性の感覚もアメリカと日本では違う?
――ちなみに、キレイな女性の感覚もアメリカと日本では違うんですか?
アンちゃん:私のイメージだけど、日本の女性は細くなりたい人が多い。アメリカの女性は筋肉が欲しい。
ムキムキとまではいかないけど、ただ細くなるだけじゃなくて引き締めるとか、強い力が欲しい。
男性も細すぎる女性はあんまり好きじゃないから、筋肉がついている女性の方を好むよね。
腹筋が割れている女性のことは大好きだし、女性もそれに憧れてジムに通ったり筋トレをしたりする。
――筋肉もキレイにつけるイメージはありますね。
アンちゃん:服装もジーパン、Tシャツにキャップとか、オシャレな洋服だけじゃなくて、ラフでカジュアルな格好はアメリカ人の女性はよくする。
大学にもあんまりファッションは考えないで出かけるよね。パジャマを着て行く人もいる。でも、日本人の女性は化粧をしたり、いろいろキレイに着飾ってから出ていくよね。
それもけっこう違うなと思う。
――日本人は外を着飾るけど、アメリカ人は鍛えて内側からキレイになろうとしているのかもしれないですね(笑)。
アンちゃん:アメリカ人は健康的でいたいという気持ちがあるのかも。運動して鍛えて筋肉があると体重は少し重いかもしれないけど、やっぱり引き締めたほうがキレイだと思ってる。
和製英語が気になったきっかけは「パイプカット」(笑)
――本の中でも語られていましたが、和製英語を気になったきっかけを改めてお話してもらっていいですか?
アンちゃん:本の中でも書いたけど、興味を持ったきっかけの言葉は「パイプカット」。
なんでパイプカットの話になったのかは覚えていないんだけど、言語学に興味がある友達と日本語の面白さについて考えていて、「これ面白い単語だよ」と「パイプカット」を教えてもらった時に、言葉の意味が全然想像がつかなかった。
それで、意味を聞いて私は爆笑した。日本人はすごく難しい医療用語ではなく、簡単に想像できるパイプをカットするという言葉を作った。
アンちゃん:和製英語はそもそも日本人同士のコミュニケーションのためにあるものだから、別に英語の意味が伝わらなくても良いと私は思うのね。
「パイプカット」を英語圏で言ってもたぶん100%通じない。絶対に想像がつかない。
でも、意味を教えたらみんな爆笑するんよ。「あ~、なるほど~!」って(笑)。
だから、こんなにクリエイティブな単語があるなら他の単語がきっとあるだろうし、もっと研究したいなと思った。
――私は和製英語だと思っていなかったので、そうだと分かると、確かにとてもわかりやすいクリエイティブな言葉ですね。
アンちゃん:最初に研究し始めた時に一番興味があったのが、どんな単語が通じて、どれが通じないのか。何年か前にアメリカに行って、いろんなアメリカ人100人以上に聞いてみた。
「ベビーカー」とか「ランニングマシーン」を英語っぽく言って意味がわかるか聞いてみたり、文章に単語を入れてみて、文脈から意味が伝わるかも聞いてみた。
英語じゃないけど伝わる単語もあったし、絶対に誰もわからない和製英語もあった。
「ベビーカー」や「モーニングコール」などは半分以上が意味を想像できたけど、「スキンシップ」とか「マジックテープ」、「パイプカット」はまったくわからなかった。
「スキンシップ」も全然伝わらなかった
――マジックテープ(商品名)は日本人が聞いても知っていないと想像がつかないですからね(笑)。
アンちゃん:スキンシップも全然伝わらなかった。韓国でも使われている言葉らしいけど、男性と女性のスキンシップに使う表現で、日本よりも少しエロい意味が強いみたい。
日本は親子や友達でも使うよね。とにかく、和製英語を考えた人は天才だと思う。
でも、日本人には意味が通じてしまうし、浸透しているから、外来語か和製英語かを区別するのが難しい。
私も学校で学生に、「これは英語か和製英語、どっちかわかる?」ってクイズを出したりするけど、けっこうわからないね。
――和製英語だと知らずに、海外に行って使ってしまうことはありますね。だから通じない。
アンちゃん:逆に、和製英語だと思っているものが英語だったりね。学生はスマートフォンを和製英語だと思っている子もいる。
あとは、日本人は略すことが好きね。スマートフォンはスマホになるし、アイスクリームはアイスになる。
――アメリカ人は単語を略したりしないんですか?
アンちゃん:略すことはあるけど、日本語ほどはないね。英語のものだけじゃなく、日本語自体も略すでしょ? あとは、「バズる」とかネット用語も面白いよね。
最近英語圏に浸透してきた和製英語とは?
――最近英語圏に浸透してきた和製英語とかってありますか?「カラオケ」みたいな。
アンちゃん:私が知っているのは、「コスプレ」「ボディコン」とか。
――ボディコン!?
アンちゃん:インターネットで調べたら、「Bodycon」は出てくるよ。食べ物はもちろん多いし、本にも書いたけど「Skosh(少し)」とか「Head Honcho(班長)」とか、日本語がそのまま英語になって浸透しているものもある。
特定のコミュニティーで通じる英語になった日本語もあって、例えば、「Bento(弁当)」は海岸沿いに住んでいるほとんどの人はわかっているんだけど、アメリカの内陸に住んでいる人はたぶんわからない。
だから、「Bento(弁当)」は相当シャレてるものだと向こうの人は思ってる(笑)。
私はド田舎のバージニア州の小さな町出身だけど、内陸はそんなにシャレているものがないから。
アンちゃんが一番好きな日本語は?
――一番好きな日本語は?
アンちゃん:一番好きなのは「夏季休暇」。もう言いたくてたまらんよ(笑)。
夏季休暇の「かかかか……」みたいな言いづらさが好き。夏季休暇を言いたくてたまらなかったから、1回大学で「すみません、夏季休暇とりたいんですけど」と言いに行ったこともある(笑)。
響きが好きで「行き当たりばったり」や「生き字引」とか。
自分ではいつも発音できない言葉なんだけど「老若男女」とか。たぶん日本人は普段特に意識していないと思うけど、こういう言葉を聞くとワクワクするよね。もっと発見したい!と思う。
――日本語が大好きなんですね!
アンちゃん:とにかく日本の批判をしたくない。全部褒めまくることもないんだけど、私達は日本のゲストで、「泊まらせてくれてありがとう」と感謝の気持ちが多いから、もし文句を言いたかったら、そういう文化だと納得するか、無視するか、自分の国に帰るかを選ぶしかないと思ってる。
日本はいろいろな問題があるけど、とても住みやすいところだと思う。特に田舎はいいよ。
今住んでいる福岡の宗像市への愛もすごくあって。職場が北九州市だから、毎日宗像市から車で向かうんだけど、帰りにトンネルを抜けて「宗像市にようこそ」の看板を見るたびに感動するね。
「なんて素敵な漢字だろう!この書き順がたまらん!バランスが素晴らしい!」って漢字を見るだけで涙が出るね(笑)。
――アンちゃんがいかに言葉が好きか伝わりました。今後も日本人が気付かない言葉の面白さを紹介していってください!