正しい褒め言葉のかけかたは?
もちろん、『褒め言葉がすべて悪影響なわけではない』ということも、植木先生は捕捉としておっしゃっています。
たとえば、「あなたの存在だけでママは幸せ」「あなたは本当にかわいい」といった褒め言葉を日常的にかけることは、子どもの自己肯定感を高めます。
また、やりたくないことをがんばったとき、やらなければいけないことをがんばったときなども、褒め言葉は効果的です。
子どもの心には「自分のがんばりが認められた」「がんばって良かった」という気持ちが芽生えるでしょう。努力することの意義や、大切さを分かるかもしれません。
しかし、『本人が自発的にやる気を出していることに関しては、まったく逆効果になる』のです。
植木先生によると、アンダーマイニング効果は、小さな子どもほど顕著に表れると言います。
子どものやる気を他ならぬ親が奪うことのないよう、ご褒美や褒め言葉のタイミングには、十分に注意したいですね。
ターニングポイントは、小学校3、4年生!
今までアメとムチ式で子どものやる気を引き出そうとしていた場合、これからどのように接し方をシフトしていけばいいのでしょう?
また、接し方を変えるのに、最適なタイミングというのはあるのでしょうか?
植木先生にアドバイスを伺いました。
『子どもは小学校低学年ぐらいまでは「できた・できない」の世界にいます。たとえば、鉄棒ができた、縄跳びができた、ひらがなが書けた、などなど…。
子どもは、そんな「できた・できない」の世界から、今度は「なぜ?」「どうして?」を考える知的好奇心の世界に、おのずと移行していきます。
「なんで自分はできないんだろう?」
「どうしたらできるようなるだろう?」
「これができたらどうなるだろう?」
「これができなければどうなるだろう?」
大体、小学校3、4年生ぐらいからでしょうか。「できた・できない(できなかった)」の世界では満足しなくなってくるんですね。次のステージに進もうとするわけです。
親としては、そのタイミングに気づいて接し方を変えることができるかどうかが、一つの局面になるでしょう。
「できた・できない」の目に見える単純な世界では、ご褒美などの報酬を与えることがたやすいし、アメとムチ式のコントロールも成り立ちやすいのは事実です。
しかし、その「できた・できない」の世界のままのやり方で子育てをしていたら、子どもの知的好奇心は育まれていきません。また、オトナになっても「できた・できない」の単純な考えで生きる、味気ない人間になってしまいます。
子どもに知的好奇心の芽生えが見られたら、親も「できた・できない」の世界から抜け出すこと。
「そんなこと考えなくていいから、とにかく〇〇ができるようにがんばりなさい!」という考えで子どもにいつまでも接しないこと。
一緒に「なんでだろうね?」「どうしてだろうね?」と子どもの知的好奇心に寄り添って接することが大切です。
そうすることで、子どもは知的好奇心を思う存分発揮することができます。
自分で物事を考え、積極的に取り組むやる気も、おのずと育っていくでしょう。』
昔と比べてきょうだいや家族が少なく、物質的にも不自由が少なく、親が子育てや子どもの教育に時間とお金を使える今の時代。
そんな今の時代の子育ては、「何を与えるか?」や「どう声をかけるか?」ではなく「いかに見守るか?」のほうが大切ということかもしれません。
植木先生は子どもや親のカウンセリングも頻繁に行っており、いろんな親子を目の当たりにしています。
その経験からも、『親からあまり口出しをされず見守られている子どものほうが、自発的にやる気を出して物事に取り組み、成果を出す傾向にある』と感じるそうです。
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今まで子どもを「アメとムチ」方式で動かすことが多かったママ、そして、子どものやる気を高めようと褒め言葉を熱心に与えていたママは、植木先生のお話を参考に、これからは少しやり方を変えてみてください。
親のやり方が変われば、子どもの反応も驚くほど変わります。
また、植木先生の著書には、やる気のメカニズム、そしてやる気を育む方法が具体的に分かりやすく書かれています。
ぜひご覧になってみてください。
【取材協力】植木 理恵(うえき りえ)
心理学者、臨床心理士。東京大学大学院教育学研究科教育心理学コース修了後、文部科学省特別研究員として心理学の実証的研究を行う。日本教育心理学会において最難関の「城戸奨励賞」「優秀論文賞」を史上最年少で連続受賞。現在、東京都内病院でカウンセリング、慶應義塾大学で講師をつとめる。また、「ホンマでっか⁉TV」にて心理評論家として人気を博す。
学術的研究にとどまらず、『本当にわかる心理学』(日本実業出版社)、『シロクマのことだけは考えるな!』(新潮社)など、一般向けに心理学を解説した著書多数。