親に認められることの大切さ
小学校の教諭をしていたときのことです。
「先生、いいでしょ!うちの娘」
個人面談で、大抵のお母さんが我が子のダメ出しから始まる中、一人だけ、第一声がそんな言葉だったお母さんがいました。
でもその子は、飛び抜けて勉強やスポーツができるわけではなかった。ただ、いつも朗らかで笑顔を絶やさず、彼女のまわりには必ず友だちが集まっていました。
私はお母さんのこの言葉を聞いたとき「ああ、こういうことなんだ」って、彼女の姿とお母さんの言葉が一本の太い線でつながった気がしたんです。
人間性を形成し、他人を満たし、惹きつける人格をつくりあげるのは、勉強や運動が優れているかではなく、どれだけ親に認められて、肯定されて育つのかが重要なんだと。
私自身、そのお母さんに親としてのあり方を学ばせてもらった気がしています。
生徒を褒め続けたことで、親子関係まで変化した
2年間同じクラス(3、4年生)を担任する中で、私がみんなの前で褒める回数がいちばん多かった、ある女の子がいました。
クラスで一番の大柄な体格で勉強も運動も苦手だけれど、人一倍頑張り屋さんで、物事に取り組む姿勢はいつも真剣。体操着が真っ黒になるくらい何度失敗しても逆上がりの練習をしたり、掃除だって大きな体をかがめてロッカーの隅までゴミをかき出したり、そんなタイプの子でした。
私は、保護者の方とは1対1の時間をできるだけつくりたいと思って、各家庭にまめに電話を入れるようにしていたのですが、彼女の自宅に電話をする回数が一番多かったと思います。
ただ、私が彼女のことをいくら褒めても、お母さんは「うちの娘が?」と半信半疑でした。
彼女はすごくがんばり屋さんだけれど、みんなと同じようにできないことが多かったために、お母さんは娘さんが褒められることに戸惑っていたのかもしれません。
それでも、私は継続して電話をかけては彼女のことを褒め続け、毎回最後には「夕飯の時にでもぜひ褒めてあげてくださいね」と伝えていました。
4年生の運動会の時、それまでは人前で積極的に何かをするタイプではなかったその女の子が、なんと応援団に立候補してくれたんです。それから1ヶ月間、いつもの彼女らしく、本当に頑張って練習していました。
運動会当日。彼女のお母さんに会うと、ピカピカの一眼レフカメラを首から下げていたんです。聞くと「娘の晴れ舞台を撮ってやろうかと思いまして」と。
お母さんは、娘さんが運動会で活躍する姿を見られるなんて想像してなかったのかもしれない。それが自ら立候補して、頑張って、晴れ姿を見せてくれることになるなんて、本当に嬉しかったんだと思うんです。私は校舎の裏に行って、一人で泣いてしまいました。
教師として、子どものいいところを見つけ、とにかく褒めて、自信をつけてあげる。それを継続していけば、親御さんの見方もきっと変わる。そんなことを学ばせてもらいました。