右から汐見稔幸さん、山崎博司さん、木村洋さん

これからの道徳とは?

先日、『答えのない道徳の問題 どう解く?』をもとにした、ポプラ社主催の【答えのない道徳の問題「どう解く?」ワークショップ~子どもに聞かれて困る問題、あなたはどう解く?どう答える?】が開催されました。

小中学生の子どもを持つ親、もしくは教育関係者という条件で、20名ほどの一般参加者が実際に答えのない問題に取り組みました。

本書の文章と絵を手掛けた著者のうち山﨑博司さん、木村洋さん、そして、答えのない問いの解答者のひとりである教育学者の汐見稔幸さんも参加し、本にこめた想いや、本の影響がどのように広がっているかについてもお話が聞けました。

ワークショップの様子

お話のなかで、解答者のひとりである汐見先生は、これからの道徳について、次のように語りました。

「人間が賢くなるためには、どうしてだろう、なぜだろうと考え続けるしかないんです。これからの道徳は、答えのない問題が山積みの社会に、子どもたちがどうやって出ていくかということを問う道徳です。答えのない問題を誠実に議論する姿勢そのものが、道徳とも言えます」

世界は、理不尽なこと、理解に苦しむことであふれています。

その一例として、汐見先生は貧富の差について話されました。世界で一日に亡くなる人の数は4万人、そのうち3万人が乳幼児だそうです。

それにひきかえ、日本ではいまだに膨大な量の食品を毎日、廃棄しています。なぜここまでバランスが崩れてしまったのか。賢人にもすぐに答えは出せないでしょう。

既存の価値観や考えをいったん横に置いて、多様な角度からものを考える習慣を、大人になった今からでもつけなくてはいけない時代が来ています。もしかしたら、子どもたちの方が柔軟な答えをいくつも出せるのかもしれません。

本書のページをめくってみると、著名人の方たちからの解答もさることながら、小学生の出した解答にもたびたびハッとさせられました。

「どうして正義のヒーローは、悪者を殴っていいんだろう?」

ワークショップで実際に出た問いのうち、ひとつがこちらでした。

ワークショップで出た解答の数々

4グループに分かれた参加者からは、さまざまな意見が出ていました。

  • 「フィクションだから」
  • 「自分が思うことを貫くための方法のひとつ」
  • 「反面教師」
  • 「そういう役職だから」
  • 「正当防衛」

などなど、大人の事情を感じさせる言葉もチラホラ。「難しい~」と頭をかかえる姿も、時折見られました。

また、作者の山崎さんが、実際にある小学校で、子どもたちと答えのない道徳の問題をどう解くかのワークショップをした時のことを話してくださいました。

小学校でのワークショップの様子

「子どもたちからは、頭が疲れたけど楽しかったという声が多く聞かれました。普段の授業とちがって、自分の体験に置き換えて考える子どもが多かったようです」

筆者がすばらしいな、と思ったのは、どんな意見が出ても、その意見に反対したり、否定したりする子どもはいなかったというくだりでした。

道徳をどう教えるかについては、教師も親も頭を悩ませるところだと思いますが、まずは、家庭でできることとして、たとえばニュースをひとつ取り上げて、親子で話し合うことから始めてみてはいかがでしょうか。

「今、答えのない問題でも、議論を続けることが大事」と繰り返し、汐見先生は言われていました。そのためには、いかに生活が便利になろうとも、自分の頭で考えることを手放さないことが大事なのだと思います。

答えのない道徳の問題 どう解く?』は、いくらでも話し合ったり、考えを深められる一冊です。ぜひ、お子さんと一緒にお手に取ってみてくださいね。