高層オフィス街で取り残された雑居ビルでがんばる50年の老舗

韓国は朝鮮戦争や民主化運動など激動の時代を経て、世の中が落ち着いてからまだ20数年しか経っていない。

日本では百年くらいの歴史がないと老舗とは言わないかもしれないが、韓国で創業50年の食堂といったら、なかなかたいしたものなのである。

ヘジャンクッ(酔い覚ましスープ)の老舗『興進屋(フンジノク)』がある清進洞(チョンジンドン)というところは、日本の人にもおなじみの仁寺洞(インサドン)の西側に位置している。

十年くらい前までは、今の鍾路3街のような庶民的な繁華街だったのだが、再開発が一気に進み、今や高層ビルが立ち並ぶ江南のような街になってしまった。

鍾路3街の行く末を見るようで少々悲しい。

『興進屋』のヘジャンクッ。真ん中にあるのがソンジ(牛の血の煮凝)

清進洞には『清進屋(チョンジノク)』というさらに歴史のあるヘジャンクッの老舗があるのだが、再開発が進んだとき、表通りに面した大きな新築ビル1階に移転してしまった。

『興進屋』はこの店の後塵を拝するナンバー2的存在なのだが、再開発で立ち退きになった後も、すぐ近くの雑居ビルに移転し、しぶとく営業を続けているので、なんとなく応援したくなってしまうのだ。

ヘジャンクッとは二日酔い解消のために食べることが多いのだが、二日酔いでなくても美味しくいただける。地域ごとに特徴があるが、ソウルではレバーのような色をしたソンジと呼ばれる牛の血の煮凝りがゴロンと入っているのが一般的。一見グロテスクだが、食べると案外淡白で、レバーが苦手でなければ気に入るはずだ。

この店のそれにはソンジ、牛モツ、豆モヤシ、ダイコンの干し葉が入っている。薄味なので、卓上の塩を足して味を調節してもいいし、塩分が気になる人はそのまま食べて、副菜のキムチを味のアクセントにしてもいいだろう。

値段は8,000ウォンで、ナンバー1の店より2,000ウォン安い。

 

『興進屋』の外観。ヘジャンクッの他にソルロンタン(牛骨と牛肉のスープ)8,000ウォンも出している

興進屋
鍾路区清進洞142-1 TEL: 02-732-2214 9:00~15:00 17:00~22:00 日曜休

※本コラムの筆者の新刊『韓国の旅と酒場とグルメ横丁(仮)』が9月上旬、双葉社より発売予定です。

鄭銀淑:ソウル在住の紀行作家&取材コーディネーター。味と情が両立している食堂や酒場を求め、韓国全土を歩いている。日本からの旅行者の飲み歩きに同行する「ソウル大衆酒場めぐり」を主宰。著書に『美味しい韓国 ほろ酔い紀行』『釜山の人情食堂』『韓国酒場紀行』『マッコルリの旅』など。株式会社キーワード所属。