『虐殺器官』から観てもらいたかったところはあります

山本:『屍者の帝国』は円城塔さんが書き継いだ別のストーリーが付いているので、それはそれで特別なんですけど、伊藤計劃さんの作品の魅力である人を揺する感じとか予言的な部分は、まず『虐殺器官』があってその次に出てくるところがあるので。そういったところまでお客さんに伝える機会は、失われてしまったかなと思っています。

――お客さんに観て頂きたい順番としては、やっぱり『虐殺器官』から?

山本:順番を揃えて観ないと話がわからないということは全くないんですけど、やっぱり伊藤計劃さんという人を知ってもらうといった、映画を観るということから作品周辺への波及においては、トラブル抜きに『虐殺器官』から観てもらいたかったところはあります。

今回のプロジェクトの意義みたいなものってそういうことだと思うんですよね。自分の中で「映画を観る」ということがちょっと変わったとか、この作品をきっかけによく映画を観に行くようになったとか、そういうこともエンタメの効能だと思うんですけど、トラブル続きで、マイナスのほうがいまのところ大きい。『虐殺器官』でいい結果が出れば報われたりはするんですけどね。

当初思っていたプロジェクトは、世の中的にはその瞬間のトレンドではないものだけど、いま注目してほしいというものを連続して出していこう、というような意図があったので。……うまく言えないのですが、複雑ですね。

©Project Itoh / GENOCIDAL ORGAN

――過去2作品について、ご自身の中での満足度や、こういうところを観てほしいというところはありますか?

山本:ちょうど地上波で深夜に放送するので、それで観てもらいたいなと思います(『屍者の帝国』は放送済み、『ハーモニー』は2月4日(土)26時20分からフジテレビにて放送)。映画なので興行収入はもう少しいきたかったから正直満足はしてなくて、『虐殺器官』でどれだけそれを取り返せるかというのが勝負ですかね。中身のことはお客さんが感じることなので、僕がどうこう評価してもしょうがないです。

――実際に観てもらわないとですね。

山本:そうですね。前売り券の数字だけを見ていても、『虐殺器官』はいい数字なので、予定していた順番で公開できなかったことがほかの2作には申し訳なかったと思います。

『ノイタミナ』が生まれた背景

――2016年のアニメーション映画界は『君の名は。』や『この世界の片隅に』といった作品が大ヒットして、これまでアニメーション映画をあまり観ていなかった若い層やご年配の層がたくさん劇場に足を運ばれ、より一般化した年だったと思います。

山本さんはかつて『ノイタミナ』において「アニメで月9を作る」というような意気込みで手がけられていたと思うのですが、そんな2016年という年をどのように見られていましたか?

山本:「アニメの月9」っていうのは当時から矛盾したビジョンだと思っていたとこがありました。ずっとアニメのメインだったゴールデンタイムの『ONE PIECE』みたいなものと、深夜アニメの乖離みたいなものが起こっていた間でやっていたのが、『ノイタミナ』だったんです。

その両方にいけるようなものを作るというのが『ノイタミナ』は宿命的にあったので、まさに『君の名は。』は、ずっとある映画文化・娯楽的な文化と、『ガールズ&パンツァー』のように同じお客さんが何度も観に行くような作品という間の乖離を、力でねじ伏せたような作品だったと思います。