「Triangle」(2005年11月23日発売/38枚目のシングル)
「Fly」とは別に、稲垣吾郎が中心となるPVがもう一本ある。2005年の「Triangle」だ。
この楽曲は、2015年、つまりSMAPにとっていまのところ最後の出場となった『NHK紅白歌合戦』でも歌われた曲であり、SMAP史上最もメッセージ性の高い楽曲である。
だが、このPVは、歌われている内実をなぞることはせずに、オリジナルなストーリーを奏でていく。そして、数少ないSMAPのストーリー仕立てPVの中でも、最もストーリー性が高くなっている。
ストーリーの主人公は稲垣吾郎ではなく、ひとりの老婆である。彼女は老人ホームで暮らす、SMAPファンである。部屋には彼らのポスターが貼られており、ツアービデオ(VHSだ)を観るのが何よりの楽しみだ。だが、ある日、何者かによって、ポスターには可愛い落書きが施され、大切なビデオは盗まれてしまう。
そんな彼女の前に、ひとりの青年がホームの新しいスタッフとして現れる。彼は稲垣吾郎にそっくりだ。老婆はときめかずにはいられない。
その後の展開は省略するが、最後には他の4人にそっくりなスタッフもホームにやって来て、この楽曲を老人たちのために歌う。
誰がツアービデオを盗んだか、その目的が何だったかも明かされる。
だが、そうした成り行きはともかく、ここで重要なのは、このPVがファン心理を屈折したかたちで投影している点であろう。
おそらく本作は、SMAPによる最初で最後の「ファン批評」である。
そこにあるのは、単なる愛や感謝ばかりではない。ある種の諦観のようなものさえ伺える。
「世界に一つだけの花」の手話もモチーフとして挿入される本作は自己批評性にも満ちており、彼らが12年も前に、SMAPという存在のある種の総括をおこなっていたことに驚かされる。
SMAPを愛でるとはどういうことか。SMAPが必要とされるのはどういうシチュエーションなのか。それがここではシミュレートされているとも言える。2011年の大震災から6年も前に、SMAPと大衆の関係性は、PVの中で思考されていたことに驚かざるをえない。
また、高齢化社会における、アイドルとファンが共に老いていくことについての、きわめてウォーミーな答えのひとつが提示されているようにも思える。
楽曲のシリアスさが、いい意味で反転する瞬間も少なくない。
いずれにせよ、このPVは観るたびに印象が違う。何度も見直す価値のある、実に現代的なSMAP作品である。