「Fly」(1999年6月23日発売/30枚目のシングル)

まず、1999年の「Fly」。これは、SMAPとはメンバーのソロ活動でも縁の深い石井克人監督による短編映画仕様なのだが、映画ならではの含意に富んだ興味深い内容になっている。

裏街道(この設定も、さり気なくSMAP的である。彼らは芸能の世界にあって、一貫してOthersideに存在していた)を生きる5人のうちのひとり、稲垣吾郎が闇の組織に捕らえられる。拷問を受ける彼は、その朦朧とした意識の中で、4人の仲間が助けにやって来ることを妄想する。

かくして4人は救出に訪れ、5人は勢揃いするが、悪の面々に追い詰められ、雑居ビルから全員飛び降りることになる。

「Fly」はアルバム『BIRDMAN』収録曲だから、ここで描かれる5人はBIRDMANであり、空を飛べるのだという見解は成り立つかもしれない。だが、映像で彼らが飛んでいる姿は示されない。

奇しくも2014年にはアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督が同じタイトルの映画『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』を発表しているが、あの作品の主人公がそうだったように、本当に空を飛べるのか、それとも本人の妄想なのかは、映像を見ているかぎりはまったくわからない。

このPVは多様な解釈ができる。

たとえば、ここで描かれているのは、その結末も含め、実は意識不明に陥った稲垣吾郎の脳裏に浮かび上がった走馬灯のようなものなのではないか? つまり、彼は拷問を受けて朦朧としているのではなく、既に絶命しており、その浮遊する魂が、仲間との想い出を、救出劇というドラマティックな展開の下、反芻しているだけなのではないか。そんなふうに捉えることもできるのだ。

SMAPが解散したいま、「Fly」を見ていると、ひょっとしたら彼らには無意識のうちに、何らかの覚悟があったのではないかという想像も可能になる。

もちろん、これは石井克人監督作品である。つまり、彼のSMAPの解釈のひとつにすぎない。

だが、SMAPという存在は多義的にひらかれている。だから、言ってみれば、どう捉えてもいいのである。

SMAPは突然解散したわけではないのかもしれない。たとえば、1999年の段階で、いつか別れのときが来るかもしれないという予感があったからこそ、「Fly」はあのような作品になっているのではないか。

飛び立つとは何か。飛び降りることで彼らが示したことは何か。様々なことが考えられる。

彼らは、この曲の中で、次のように歌っている。

「いまを、いますぐ、見つめてほしい」

わたしたちは悲しい出来事に遭遇したとき、「いま」を見つめようとはしない。過去にすがる。だが、18年前の映像作品を通して「いま」を見つめることも可能なのかもしれない。

「Fly」をどう解釈するかで、わたしたちの「いま」も浮き彫りになるのではないだろうか。