「Smac」(2001年7月28日発売/33枚目のシングル)

デビュー10周年記念楽曲となった「Smac」は、アニバーサリーな雰囲気は微塵もなく、彼らのやんちゃな面が表出した、アバンギャルドなPVだ。

なんとこのPVには、全身の彼らはほとんど登場しない。

冒頭、帰国したSMAPの5人は謎の外国人5人に囲まれ、「消されてしまう」。SMAPの5人は、「ど根性ガエル」のピョン吉のごとく外国人5人それぞれの白いTシャツに顔面だけが貼り付き、その平面の状態で延々歌う。

外国人たちは、日本のワイルドないストリートを練り歩き、焼肉に舌鼓を打ったりしている。SMAPの5人はただTシャツに貼り付いた顔面として、そこに居続ける。

なんともシュールな世界観だが、こうしたアイドルらしからぬことを平然とおこないながら、これもまたSMAPと思わせるあたり、実にパンクだし、誤解をおそれない彼ららしい痛快さがある。

あれよあれよという間に始まり、気がつけば終わっているPVだけに、つべこべ言わず、このザラついた肌ざわりを享受すればそれでいいのかもしれないが、わたしなどは、何が起きても、どんなかたちであれ、「SMAPは生きている」というメッセージとして、受け取りたくなりもする。

「ありがとう」(2006年10月11日発売/40枚目のシングル)

彼らの顔面だけが活躍するPVはもうひとつある。個人的には、本作がSMAP映像史の中で最も重要だと考えるが、それは2006年の「ありがとう」である。

草なぎ剛主演ドラマ『僕の歩く道』の主題歌だったが、PVはドラマの内容と無関係に、全編アニメーションで展開する。

メディコム・トイ風フィギュア、つまり、ロボットのような無機質な身体の上に、メンバーそれぞれの顔が乗っている。彼らは既製品のようであり、工場のようなところから出荷されていく。

やがて彼らは、10匹のアリと共に、ロケットで月に飛び立ち、アリたちを月に残して、地球に帰っていく。アリたちは手を振って別れるのだが、その少し前の、5人それぞれの顔がとにかく悲しい。

アリたちを見守るメンバーもいれば、涙をこらえているようなメンバーもいる。さらには、別れがつらいのか、そっとうつむいたり、顔をそむけているように映るメンバーもいる。

アニメーションの中の彼らの顔面は、最小限のコマ数で映像の中に収まっており、それだけに、彼らの悲しそうな表情は、理屈を超えて胸を打つ。

あの表情は、なんだろう?

わたしには、アリがファンに思えてならない。

この曲は香取慎吾がシングルジャケットを手がけたことがよく知られている。アリが10匹で「ありがとう」。10匹のアリたちが、イエローの空間を歩いている、キュートにして、どこかせつない絵だ。

PVはこのモチーフを拡張して、月に残されたアリたちがやがて、月に「SMAP」の文字を作り上げるまでを描きだす。

地球に帰ったSMAPの5人は、もうフィギュア=ロボットではなくなっている。人間として生きている。

中居正広が、木村拓哉が、稲垣吾郎が、草なぎ剛が、香取慎吾が、それぞれ別の場所で、ふと月を見上げる。その月には「SMAP」と書かれてある。

5人の表情は、アリたちのことを懐かしんでいるようにも思えるが、すっかり忘れているようにも思える。あるいはフィギュア=ロボットから人間に変わるとき、すべての記憶を失ってしまったのではないかとも思わせる。

だが、その月を見て、彼らは全員、微笑むのである。

2017年2月に、PV「ありがとう」を目の当たりにすると、SMAPではなくなったメンバーたちが、ふと、SMAPという「月」を見上げるまでの物語として伝わってくる。

そもそも、なぜ、SMAPはアリたちを月に連れて行ったのか。そして、なぜアリたちを月に残してきたのか。そのあたりの説明は一切ない。

だが、月、アリ、微笑み、別な場所にいる5人という映像の連鎖に出逢うとき、SMAPとわたしたちの関係を想起せざるをえない。

制作当時、映像の作り手がなにを考えていたかはわからないし、それはさほどの問題ではない。そうではなく、いま、このPVを見つめるとき、わたしたちの胸に去来することにこそ、真実はある。

いまを、いますぐ、見つめてほしい。

たとえ無意識だったとしても、メッセージは放たれていた。時間差で届いたそれを、わたしたちは吟味するべきである。こんなオリジナルな現象は、SMAPにしか起こせないからである。

SMAPは生きている。

わたしたちが、SMAPの遺産に向き合い、捉え直しをおこない続ける限り、彼らの息と鼓動は決して止まらない。

連載<SMAP is ALIVE―SMAPは生きている>更新中!

第1回:【SMAP】PVから見えてくる、“5人からの隠れたメッセージ”

第2回:俳優・木村拓哉、キャリア最良の演技!? ドラマ『A LIFE』で見せた“名シーン”

第3回:ハンパない!『嘘の戦争』の演技に見る「草彅剛にしかできないこと」

第4回:メンバー5人のラジオから受け取る、“変わらない日常”の尊さ

第5回:【中居正広】生放送でより輝く、MCを超えた魅力とは?『ミになる図書館』~『スマステ』を見て

第6回:SMAPは「無限の住人たち」である――映画『無限の住人』のラストが示すものとは

最終回:【SMAP】“珠玉の10曲”からいま受け取る、彼らが残したかったメッセージ

ライター/ノベライザー。「週刊金曜日」「UOMO」「T.」「シネマスクエア」などの雑誌、T-SITE、リアルサウンドなどのネット、日本映画の劇場用パンフレットなどに寄稿。楽天エンタメナビで週刊SMAP批評「Map of Smap」を3年5ヶ月にわたって連載。草彅剛主演作のノベライズ『嘘の戦争』(角川文庫)が3月10日に発売。