役作りしなくても舞台に上がれる特別な3人

――実際に宮藤さんが脚本を書かれたのはいつ頃ですか?

宮藤 ごく最近ですよ、今年の7、8月くらいです。

――これまでは3人の誰がどの役と決めずに脚本を書かれて、河原さんが宛てた役が宮藤さんの想像と違うこともあったと聞きました。

宮藤 今まではそうだったんです。『鈍獣』の時は特に、3人とも僕が思っていたのと違うキャスティングになりました。でも今回は役名からして、3人それぞれの名前をもじったものにしたんですよ。だから「ねずみの三銃士」では初めてのあて書きですね。

河原 そう。今回は超あて書き。配役に迷う要素が見当たらない。

撮影:阿部章仁

宮藤 自分なりに考えた3人それぞれの特徴も入っていたりして。

――なぜ今回はそのような形にされたんですか?

宮藤 この3人だったら、半分くらい役作りができていない状態でも舞台に上がれるんじゃないかなと思ったんですよ。だからあえて本人に寄せた役柄にしてみました。あの3人が素に近い状態で芝居してたらどうなるんだろうって。それくらい特別な役者さんたちだから。

河原 ふつうなら相当難しいことだと思うんだけど、「難しい」とか一切感じさせないんですよね。

宮藤 すごいですよねえ。

河原 今回、池谷さんもすごいですよ。本読みの一声目を聞いた時から「これ、池谷さんの舞台になっちゃう!」と思ったくらい。

宮藤 しかもオープニングの、本役じゃないほうで(笑)。

河原 あの三銃士と終始拮抗してますからね、説得力がすごい。

宮藤 うん、おっきい感じがしましたね。題材となった事件自体、調べれば調べるほどわかんなくなる。というか、なぜ犯人の女性があんな事件を起こしたかって理由が、ないんですよ。そこに演劇だからといって無理に理由を作らないほうが怖いと思ったんです。その代わりとなる説得力が何かないかなと思っていたけど、池谷さんがやることで、もうそれで充分だって思いました。

河原 そう、なんにせよ分かりやすい理由はむしろないほうがいい。

宮藤 この人に騙されたんだ、ってことだけで突っ走れるんじゃないかって。思いっきりぶっ壊れている人は『印獣』の三田佳子さんでもうやったので(笑)。今回は反対側の、何人も人を死に追いやっておきながら平然としてられる普通の人、というのが面白いなと。