さらに特筆すべきは、『THE GREATEST HITS』が約20年経った現在もまったく色褪せることなく、普遍的な魅力を放ち続けていること。
10年代の音楽シーンはEDMなどのダンスミュージックが中心で、“大人数でブチ上がる”パーティ的な音楽がトレンドだったが、ここ数年は少しずつ生楽器本来の響きを活かしたサウンド、フォーキーな楽曲に流れが戻ってきている。
(テイラー・スウィフトの新作『foklore』に代表されるオルタナ・フォークの盛隆は、現在の潮流を端的に示していると思う)底流しているのは、ルーツミュージックの現代的な解釈という方法論であり、それは『THE GREATEST HITS』の在り方ともつながっている。
この日のライブはほぼ原曲通りのアレンジで演奏されていたが、それはおそらく本作のタイムレスな魅力に対するKUMI、NAOKIの確信の表われであり、「そのままの音で楽しんでほしい」という思いでもあったのだろう。
電子音を抑え、アコースティックな音響にこだわった演奏、サウンドメイクも印象的だった。生楽器そのものの音を活かしたサウンドの構成はもちろん、TOHOシネマズ立川立飛の音響スペックを活かすため。
以前のインタビューでNAOKIは「この映画館のスピーカーのスペックをすべて活かせる機材は存在しない」と語っていたが、それはつまり、ミュージシャンが意図した音をすべて具現化できるということでもある。
実際、この日のライブにおけるサウンドは本当に素晴らしかった。まるでヘッドフォンで聴いているかのような密着感と生演奏特有のダイナミクスが同時に得られる音響は、まさに圧巻だった。
特に心に残ったのは、『These days』『A DAY FOR YOU』などアコースティックギターの響きを活かした楽曲。
バンド全体の豊かなグルーヴを感じながら、深沼元昭(G)、高桑圭(G)をはじめとするバンドメンバーのプレイもじっくり味わうことができる、最高の音楽体験だった。
楽曲の世界観を際立たせるライティングや映像を含め、映画館の設備をフルに生かしたこの日のライブは、あらゆる意味で“史上初”だったと言っていい。
『LOVE PSYCHEDELICO “LIVE THE GREATEST HITS 2020”』のもうひとつの意義は、コロナ禍におけるライブの新しい在り方を提示したこと。
今年の3月以降、あらゆる公演が延期もしくは中止を余儀なくされ、いまもなお、様々な模索が続いていることは周知の通り。
LOVE PSYCHEDELICOも20周年を記念したツアーが延期になったが、「今年ライブを楽しむ機会がなかったファンへのプレゼントにしたい」というKUMI、NAOKIの希望により実現した今回のライブでふたりは、“優れた音響で名盤をじっくり楽しむ”という新たなスタイルを体現してみせた。
観客は歓声、発声は禁止で、拍手や手拍子をしながらの参加だったが、アーティストと近い距離で豊かな音楽を堪能できる貴重な機会になったはず。
現状は“制限された人数のライブ+オンライン配信”が主流だが、映画館のシステムを活用したコンサートもひとつの選択肢になり得るのではないだろうか。
今回の『LOVE PSYCHEDELICO “LIVE THE GREATEST HITS 2020”』は映像収録も兼ねており、後日、有料配信される予定。今後のアナウンスを待ちたい。