しかし、バンドのアンサンブルは決して弱弱しいものではなく、むしろゆったりとした曲調だからこそ、バンドが生み出す熱気とダイナミズムが、体の芯からじんわりと、たしかな感触を持って伝わってくる。

三輪テツヤ  撮影:中野敬久

オーディエンスはマスク着用のうえスタンディングNG、歓声や指笛も禁止と場内アナウンスされていたが、座りながらも上半身を揺らすなどして、バンドの演奏にノッている人も多い。

スピッツが描く包容力のあるグルーヴ、柔らかなメロディが、11月の終わりの寒空のなか東京ガーデンシアターに集まった人々の心と体を暖める。

バンドの演奏だけでなく、草野の歌声も、深く、力強い響き方をしていて、特に序盤に演奏された「空も飛べるはず」では、その囁くような歌声の奥にあるふくよかさ、芯の強さをひしひしと感じることができた。

田村明浩  撮影:中野敬久

やはり、普段はあまり見られない特別なセットリストだったこの夜、草野が「久々に演奏する曲です」といって演奏に入るなどレア曲も演奏される中、もちろん、新曲「猫ちぐら」も披露された。

その後も、「楓」や「魔法のコトバ」などを披露。優しくて、悲しくて、美しくて、逞しい、そんなスピッツの音世界で、会場を溢れさせ、終盤のMCで三輪は「声援もいいけど、心のこもった拍手ってすごく伝わるんだと改めて思いました」と語った。

﨑山龍男  撮影:中野敬久

人も音楽も、今までのような接し方、繫がり方が困難になってしまったこのコロナ禍。そばにいることが難しくても、それでも、言葉にならない「なにか」が人から人へ伝わっていく幸福があるのだと、この幸福は失われてはいけないのだと、この日、スピッツの音楽を通して改めて感じさせられた。

(テキスト:天野 史彬)

作品の上映スケジュールは約1カ月間、午前中から深夜まで、各上映メディアごとに組まれている。PCやスマートフォンなどから、生活スタイルや環境などに合わせて上映メディア・時間を選んで楽しむことができるので、自宅でスピッツの演奏を楽しんでほしい。

オンライン上映詳細

映画『スピッツ コンサート 2020 “猫ちぐらの夕べ 』

12月21日(月) 21:00よりオンライン上映開始

詳細は公式サイトをご覧ください