あそこで涙を流すのはフェイクだと思った
キダという役は、気持ちを押し殺すような場面が多い。抑制の効いた芝居が求められる中で、数少ないほっとするシーンが、マコトとヨッチ(山田杏奈)の3人で過ごした高校時代の場面だ。
「まさかこの歳でまだ制服を着ることになるとは思わなかったです(笑)。てっきり10代の役者さんでやるんだと思っていたら、まさか全部自分でやるっていう。嘘だろと思いました(笑)。
まっけんと山田さんはまだ若いから違和感ないですけど、僕は無理があるだろうと。あそこは、みなさんもお手柔らかに観ていただけたら(笑)」
だが、そんな温かいシーンが心に残れば残るほど、キダを待ち構える運命の過酷さに胸が痛む。
「いちばん監督とよく話し合ったのは、クライマックスのシーンですね。キダはどんな顔でいたらいいんだろうと現場ですごく悩んで。いきなりあの状況になって涙なんて出るわけないし、それはただのフェイクになる。この映画のすべてがここに集約されると(クランク)インの前から考えていたので、監督とどうしましょうという話はすごくしました」
大粒の涙を流せば、確かにドラマティックに見えるかもしれない。けれど、岩田が突きつめたいのは、そんな見せかけのわかりやすさではなく、キダのリアルだ。
「監督にそういう話をしたら、監督もそうだよねと同意してくれて。たぶんあのとき、キダの中で葛藤もあると思うけど、マコトに対して理解できるという気持ちもあった気がするんですよ。本当にすごく複雑なシーンで。だから、最終的には表情をどうしようと頭で考えるのではなく、気持ちで臨みました」
エンドロールが流れ終わったあと、観客に残るのは決して軽やかなものではないかもしれない。それでも、この時代だからこそこの映画が上映される意味はあると岩田は考えている。
「2020年は、いろんな人が辛い思いをした1年でした。おこがましいかもしれないですが、この映画が自分で自分の人生を終わりにしようとしている人たちが立ち止まるきっかけになったらいいなとも思うんです。やっぱり遺された人はすごく傷つくと思うから。いろんなテーマがつまった作品ですが、僕がこの映画を通して届けたいメッセージは、命です」
出演作のレビューはめちゃくちゃチェックします
芝居は、スポーツのように記録や点数といった明確な指標がない。自身の芝居を深めていくにはどうすればいいのか、はっきりした正解のない世界で、岩田はどう演技と対峙しているだろうか。
「まず自分の出演作は必ずチェックします。やっぱり観ると毎回毎回学びがあるんですよ。特にそれを感じたのが『シャーロック』のときで。そこから台詞の間をより意識するようになりました。聞いていて気持ちのいいテンポをつくることだったり、言葉を立たせるところと抑えるところの調整をもっと考えるようになったり。
細かいパーツにこだわるようになったのは『シャーロック』をやってから。それまでずっと感情をつくることはできても、その感情をちゃんと観ている人に伝える方法が自分の中で消化できていなくて。そこは『シャーロック』以降の1年で特に意識するようになった部分です」
そしてもうひとつが、声を聞くことだ。
「お金を払って映画館に来てくれた観客の方や、テレビの前の視聴者のみなさんがどう思ったのかはちゃんと見るようにしています。だからFilmarks(映画レビューサイトのこと)とかめちゃめちゃチェックしますよ。やっぱり映画好きの方がよく投稿しているので、参考になるコメントがたくさんあって。それが、どんなマイナスのコメントでも受け入れるようにしています」
そうしたレビューは時に容赦ない言葉も並ぶ。心を削られませんか、と恐る恐る聞いてみると、岩田はにこやかに「削られます」と笑った。
「でもそれも仕事のうちだと思うので。なんでもそうですけど、叩かれるうちが華というか、アンチがいてなんぼの世界ですから、そこは本当に気にならなくなっちゃいましたね。自分の気づきになるものだけをちゃんとピックアップして、反省の材料にしています」