カラオケも歌えるスナック風喫茶
もうひとつ、艋舺に多いのが茶店だ。だが、高齢者と言えばお茶、という想定をくつがえすものすごい茶店がある。
康定路や西昌街には「茶行」や「茶坊」という看板が多数見受けられるのだが、普通に茶葉を販売したり、お茶を飲んだりする喫茶風の店とは違い、奥にカラオケステージが設置してあるスナック風の茶店がある。
受付で200元(730円ほど)支払うと、お茶請けが付いて3時間お茶を飲み放題だ。50代~60代のお姉さんがテーブルについてくれて、お相手をしてくれる。アルコールではなくお茶なので、健全は健全。もちろんカラオケも歌い放題。
彼らの話題はもっぱら孫や嫁の話だったりするが、隠居生活を送る艋舺のおじさんたちは、こうした茶店で他愛のない会話をしたり、カラオケで大好きな日本語の歌を歌ったりして、つかの間の喜びを得ているのかもしれない。
高齢化する日本にも、こんな茶店があったらいいのに、と本気で思ったりする。
日本語の懐メロが歌えるカラオケ
一方で、アルコールを出すスナックももちろんある。茶坊が多い西昌街、桂林路、西園路といった艋舺の裏通りには、カラオケスナックも点在している。
茶店ほどオープンではなく、外から中が見えないことが多いので入りづらいが、店に「卡拉OK」とあればカラオケが歌える。
祖師廟の居酒屋で意気投合した地元のおじさんに連れられて行ったスナックには、昔ながらの分厚いカラオケ本があった。
日本ではデジタル化され、専用機で入力するようになって久しいが、いまだ昭和の艋舺では歌本で曲を探して番号を書き、ママに手渡すという懐かしいシステムだ。
日本語の懐メロを歌いながら地元の人たちと酒を飲み、艋舺の夜がふけていく。艋舺なのか、浅草なのか、21世紀なのか、80年代なのか、時空をさまよっているような不思議な気分にひたれる場所だ。
艋舺とは?
1970年代が全盛期だった艋舺(萬華)は、当時の台湾でもっとも賑やかな繁華街であり、上京者がこぞって目指す憧れの地だった。
日本の東京で言えば上野・浅草のような街だ。かつて艋舺北西部の華西街夜市にはヘビの生血を飲ませる屋台があり、その裏手の赤線地帯ではピンク色のネオン看板が怪しげな雰囲気を醸し出していた。
その辺りの雰囲気は以前本コラムで取り上げた台湾映画『モンガに散る』(台湾ロスを癒す「日本で楽しむ台湾」vol.1【話題の映画】)によく描かれている。
2月27日(土)は本コラム筆者の映画ドラマ吹替翻訳講座
1984年の映画『ベスト・キッド』をドラマ化したドラマ『コブラ会』(Netflixで独占配信中)、コン・ユ主演の映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』やイ・ビョンホン主演『天命の城』、イ・ヨンエ主演のドラマ『師任堂、色の日記』などの韓国作品をはじめ、北京語や英語コンテンツの吹替翻訳を担当した本コラムの筆者が、字幕翻訳とはひと味もふた味も違う吹替翻訳の仕事のおもしろさについて語ります。
アジアの映画やドラマに出てくる言葉に関心のある人や、得意な語学をいつか仕事に活かしたいと考えている人におすすめ。