『映画 おかあさんといっしょ ヘンテコ世界からの脱出!』

今年はコロナ渦で劇場で声が出せないため、制作陣は安心して楽しめるように“声を出さず”に“自分の席で”映画に参加できる作品を作り上げた。さらに古屋氏は「最初に企画を立てた時から“コロナのことは避けて通らない”と決めていた」と振り返る。その結果、本作ではいつも仲良しなお兄さんとお姉さんが、ちょっとした勘違いからケンカしてしまい、さらにバラバラになって、いろいろなヘンテコ世界に飛ばされてしまう物語が描かれる。いつも一緒のお兄さん、お姉さんはそれぞれが少しヘンテコな世界にたったひとりで立ち向かうのだ。

現実とは少し違うヘンテコな世界、一緒にいることができずにバラバラに引き離されてしまった状況……それは現実の世界を反映しているのかもしれない。

「僕は30年ぐらい番組に関わっているのですが、最初は幼児番組は現実とはちょっと違う世界にあるものだと思っていたんですよ。どちらかとファンタジーのような世界で、そういうものが幼児番組だと思っていました。その考えが変わったのは、東日本大震災です。震災であのような状況になった時に、『番組が現実に対して何も手を打たないのは違うのではないか?』と思うようになって、被災地に行って応援するロケをしたりしました。あと、この10年で子育てが非常に大変なものになってきていて、番組をリアルな“子育ての伴走者”だと捉えてくださる方の声が多く届くようになったんです。そうなると、これまでよりも少し具体的に現実の問題にタッチしてもいいのではないかと思うようになってきました。

だから、今回の映画でいうと最初に企画を立てた時から“コロナのことは避けて通らない”と決めていました。公開時期を考えると、コロナがまだ続いているか、ある程度おさまったぐらいの状況だろうと。その時にコロナとはまったく関係のないバラ色の世界を描くのか?と考えたら、それは違うと思ったんです。だから"コロナ禍をどう描くのか?”がこの映画のテーマのひとつで、そこで出てきたのが“ヘンテコ世界”です。ある種、コロナ禍の象徴だと捉えられるのかもしれない。3年前の状況と比べたら、いまは少し変な世界なんですよね。だから、“ヘンテコ世界”で起こる変な体験だったり、ヘンテコなものをどのように解決していくのか? それを描くことで、今の世の中に対するメッセージだったり、励ましであったり、共感が生まれるのではないかと思ったのです」

もちろん、本作は楽しい場面がたくさんあり、メッセージがお説教のように描かれたり、シリアスな展開として描かれることはない。しかし、劇中で歌のお姉さんは“色がなくなってしまったヘンテコな世界”に迷い込んでしまい、自分はなぜ歌っているのか、自分はみんなの役に立っているのか迷ってしまう。ここにも子どもたちや時代と真摯に向き合おうとする制作陣の想いが感じられる。

「誰かがアイデンティティを喪失する展開は、企画の初期の段階から考えていましたし、コロナ禍で起こった一番のヘンテコポイントだろうと思っていました。コロナ禍の状況で自信を喪失したり、自分の居場所を失ってしまったり、迷ったりすることは現実にもあると思うんですね。たとえば孤立してしまった親御さんが“子育ての意味って何?”とか“私は社会の役に立っているの?”と思うことがあるかもしれない。そんな状況を登場人物の迷いから感じてもらえるんじゃないかと思いました。そして、迷った時に支えになるのは、相手からの温かい気持ちだったり、自分で自分の存在価値を見つめ直すことなのかもしれない……そんなことを感じてくださる方がいれば嬉しいです」

スクリーンの中のドラマにワクワクし、一緒にゲームに参加し、記念撮影もできる“参加型”映画でありながら、大人がじっくり観ると現代の観客に向けたメッセージや想いが感じられる本作。子どもたちに付き添って出かけた大人たちは予想外の感動や体験に出会えるはずだ。

「とは言え、この映画は“道徳の教科書”ではないので、いかに説教くさくなく物語の中に取り込むことができるのか、みんなでアイデアを出し合って、試行錯誤しました。いろいろとかたちを変えていって、最終的にこの映画になったということですね」

『映画 おかあさんといっしょ ヘンテコ世界からの脱出!』

『映画 おかあさんといっしょ ヘンテコ世界からの脱出!』
9月10日(金)公開

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