生活のリズムを無理に整えようとしないこと

ーー子どもが朝起きなくなって、学校に行けないというケースもあります。

実は身体の不調が進むと昼夜逆転が起こったりします。YouTubeを見たり、ゲームをして夜遅くまで起きているから、生活リズムを整えることが大切というのは正論です。

しかし昼夜逆転が起きる理由はそんな単純なものではなく、今までちゃんと出来ていた子どもが出来なくなるには理由があるんです。

学校に行こうと思って朝起きたのにどんなに努力しても身体が重くて動くことが出来ず、そうこうしているうちにお昼を過ぎてしまい「今から学校に行っても間に合わないから休むしかない」と思うことで初めて自分の心と身体を解放する、そうやって夕方起きるから朝まで起きている、それが負のスパイラルになって昼夜逆転を繰り返すんです。

でも「みんなができることが私にはできない。私はできそこないだ」と激しく自分を責め続ける状態が続いていたら、精神疾患を発症していたのかもしれません。

今、児童精神科が足りないほど、追い詰められて精神疾患を患っている子どもがいっぱい居るんです。極度のストレスが溜まるとメンタル(心)が壊れてしまうことがあるから、昼夜逆転が出来たことでメンタルな病気を発症しない、心が壊れることを防いでいる場合もあるということを知っておいて欲しいです。

学校に行かなくたって大丈夫

ーー学校に行けない子どもに親はどう接するのが良いのでしょうか?

どんな状態であっても子どもを罵倒しないで「大丈夫だよ」と受け止められれば、それを通して「こんな私でもダメじゃないんだ」と子どもの心に安心感が広がっていきます。

しっかりと休息して安心が広がると、自然と意欲が湧いてきて動き始めたりもするので、昼夜逆転も必要以上に恐れることはありません。

親って、子どもが生きるか死ぬかまで追い詰められ底をついた時に「この子が生きてさえ居てくれればそれでいい」とやっと思えたりするんですが、そのときに大きな変化があらわれます。

ーー不登校になると勉強の場が無くなるので子どもの未来も心配です。

学校に行かなくても学べる場所はいくらでもあるんです。インターネットでもいっぱい学べる教材はありますし、通信教材もあります。

平成28年には「教育機会確保法」という法律も出来ています。不登校のために学校で勉強する機会を失ってしまった子どもに対して、学校への登校を強制せず、それぞれにあった学習環境を各自治体が保障するというものです。

そういう流れもあるので家庭で勉強をしてもいいんです。実際にタブレットなどでの学習履歴を学校に見せて出席扱いになっているケースもたくさんあります。

学校に行けなくなった子を否定するのではなく、「人生にはそんなこともある」と受け止める。

「お父さんもお母さんも学校に行けなくなった私を見捨てない。寄り添ってくれた」と思えた子どもは、その先いくらでも何とでもなります。

ーー引きこもりになると社会性が身に付かないのではと考えてしまいます。

引きこもりに関して言うと「勉強は通信教育で出来るけど、誰にも会わなくなってしまったこの子は、もう社会に出られない」と親は心配します。でも社会性って何なのでしょうか。

会社に行っても誰とも話さないでパソコンの前で黙って仕事をして帰るお父さんも居ます。それに学校に行っているからといって社会性が身に着くわけでもありません。

学校で自分の存在を否定されるようないじめにあっているのに、耐え続けながら学校に行くことが豊かな成長であるはずがありません。そんなに苦しい場所ならば離れればいいんです。

「自分は駄目な子、要らない子なんじゃないか」と思ってしまい家から出られなくなってしまった子に対して、近くに居る大人は悩みを聞きながら「あなたは要らない子じゃない、大切な子だよ」と親の思いを伝えられたら、その子は社会性を身に着けるんです。

世の中にたった1人でもいいから自分のことを受け止めてくれる、信じてくれる人に出会えれば、人は社会に出ていくことが出来るんです。

だけど大人は、その子の話を聞きながら「それは駄目だよね。そんなことをしたら嫌われてしまう」などとつい言ってしまうんです。

でも喜んで引きこもっている人に出会うことは、ほとんどありません。コミュニケーションを上手くとれなくて苦しんでいる理由がその子なりにあるんです。

まずはまるごとその子の話を聞いてくれる大人が傍にいて、「人は信じられる」ということを手に入れられれば社会性も身に着きます。

親のみならず第三者の大人も子どもを褒める社会に

ーー不登校になり、フリースペースに来る子どもたちはどう変化するんでしょうか?

このフリースペースに来ている子たちは学校に行かず、遊んだり、楽器をやったりと自分の好きなように自由に過ごしています。

「好きなことをしていいんだよ」と肯定的な眼差しの中で過ごしていると進学指導をしていないのに、自分から段々と「高校には行きたい」と思うようになる子がけっこう居て、そういう子達はかなりの確率で勝手に高校に行っています。

もちろん、学校に行くことがゴールではありません。その時間を豊かに生きることが大切なんです。「学校に行けなかった時間も意味のある時間だったね」と思えるように親が関わることが出来れば、子どもの不登校は何の心配もありません。

ーー「フリースペースえん」に来る子ども達は、どのタイミングで親御さんたちに連れて来られるのですか?

こじれにこじれてから連れて来られる方も居ますし、「学校に行けなくなっても、こんな場所で過ごしてくれれば」と思って連れて来られる方も居ます。

基本的には本や新聞、テレビ、SNSなどで親が情報を仕入れて、子どもに「ここに行ってみる?」というタイミングで「フリースペースえん」と出会います。

説明会も開いています。説明会をしてから親の面談をして通過したら子どもの体験が出来るような仕組みになっています。

そして子どもが実際に体験して「私、ここに入りたい」と子ども自身が言ったら(子どもの意志)で入れる場所です。日本で初めて公設民営で作ったので利用料はかかりません。勉強も教えていますし、色々な講座もあります。

「ゲームをしてもいい」「遊んでもいい」、子ども達は過ごしたいように過ごしていい場所です。