身体を温め、栄養もつき、サッと食べられるテジクッパ(豚肉や豚骨を煮たスープとごはん)。
釜山とその周辺地域のローカルフードから全国区の食べ物になりつつあるテジクッパの魅力を再確認しよう。
昔ながらのファストフード
クッパは昔ながらのファストフードである。今でもメニューの名前として生きているチャントクッパ(市場のクッパ)という言葉はそれを象徴している。
市場で働く人や仕入れに来た人たちはゆっくり食事もしていられなかったので、スープにごはんが入っているクッパを好んだのだ。
日本に留学していた時代、サラリーマンが立ち食いそばをサッとすすって去っていくのを見て、私はクッパを思い出した。牛肉を使ったクッパと比べると、さらに大衆的なテジクッパは、より立ち食いそばに近い存在だが、栄養価は立ち食いそばをはるかに上回るだろう。
クッパという言葉は汁物とごはんのことなので、本来はスープにごはんが入っているものを指す。しかし、いつの頃からかスープとごはんを別々に食べる人が増え、最初から別々に出す店が少なくない。
スープに入れようが、別々に食べようが、お客さまのご自由にというわけだ。
そもそもスープにごはんを入れるというのは、米の質がよくなかったせいもある。我が国が豊かになり、米の質が向上すると、ごはんの食感や甘味を楽しみたい人が増える。
キムチやナムルなどの副菜がよくなると、それをアクセントにごはんを食べたくなる人も増えたのだろう。
ソン・ガンホ主演映画『弁護人』とテジクッパ愛
「ソウルで働いていたとき、旧正月に釜山に戻ってきてテジクッパを食べると、ああ故郷に帰ってきたんだなあってホッとしたもんです」
釜山で出会った若いタクシー運転手さんの言葉だ。
そんな釜山とその周辺地域の人々のテジクッパ愛を確認できる映画がある。名優ソン・ガンホが第16代大統領・廬武鉉(ノ・ムヒョン)の弁護士時代を演じた『弁護人』である。
ソン・ガンホ扮する主人公は苦学生時代、キム・ヨンエ扮する女将が切り盛りするテジクッパ屋に通っていた。参考書を買いたくてクッパ代が惜しいときは食い逃げまでしたが、晴れて弁護士になったときは女将に謝罪しにやってきた。
弁護士事務所を開設してからも主人公のテジクッパ屋通いは続く。あるときは相棒(オ・ダルス)に「テジクッパはニラをたくさん入れると旨いんだ」と講釈をたれる。またあるときは相棒が「たまには違うものを食べよう」と言っても耳を貸さず、クッパ屋に引きずり込む。
廬武鉉もソン・ガンホもともに釜山の隣の金海出身だ。
この地域特有の粘っこい方言にもテジクッパ愛にも説得力がある。ちなみに女将役のキム・ヨンエも釜山の影島出身である。