神奈川県伊勢原市郊外に行列のできるパン屋がある。『ムール ア・ラ ムール』だ。
魅力のひとつが、地元農家に育ててもらった「湘南小麦」を使っているところ
週末ともなれば、大勢のパン好きが行列を作り、15時過ぎにパンが売り切れる日も多いという。
この店の魅力のひとつが、地元農家に育ててもらった「湘南小麦」を使っているところにある。その小麦をパン職人の本杉正和さんが自社製粉工場『ミルパワージャパン』で製粉し、パンを焼いているのだ。なぜパン職人が製粉もするのか。
「近隣の農家が育ててくれた小麦をきちんと製粉しないとおいしいパンにはなりません。高いレベルで製粉することで、小麦の価値を少しでも高めたいと思っています」
製粉工場には直径60センチの石臼が6基並んでいる。小麦は熱が加わると旨味や香りが飛んでしまう。
「そのため熱を持ちにくい石臼で1分間に9〜12回転の低速で小麦を挽いています」
昨今、国産小麦を使うパン職人が増えている。けれど、地産地消を提唱する本杉さんは、地元産小麦を自分で製粉する、かなり珍しいパン職人といえるだろう。
「すべてのパンに自家製粉した湘南小麦を使っていますが、同じ品種だけでパンを焼くと味に変化がありません。
日常食としてパンを食べてもらいたいと思っているので、北海道や九州などから仕入れた小麦粉をブレンドすることで味に変化が出るようにしています」
自家製粉した湘南小麦にも北海道産小麦にも九州産小麦にもそれぞれいいところがある。それらをブレンドすることで本杉さんが作りたいパン、パン好きが求めるパンを焼けるように心がけているのだそうだ。
もうひとつの特徴は、酒粕を使っているところ
もうひとつの特徴は、酒粕を使っているところにある。ドライイーストを用いるパンもあるが、友人の酒蔵から仕入れた酒粕でおこした酵母を使用している。
「酒粕に含まれる酵素が小麦のグルテンを切ってくれるため、モチモチで、歯切れのよいパンになります」