これほど香りが際立ったパンを食べたのは初めてかもしれない。パンを手で割った瞬間、複雑な香りが立ち上ったのだ。味も見事だったが、それ以上に香りが鮮烈だった。
店の名は、『Blue Poppy Bakery(ブルーポピーベーカリー)』。山口哲也シェフが二子玉川の住宅街にオープンさせた新店舗だ。
山口シェフが食べてほしいパン5つ
山口シェフに食べてほしいパンを5つあげてもらったのだが、5つとも香りが素晴らしかった。
スパイスの香りがする「チェダービスケット」
特筆大書したいのは、「チェダービスケット(350円)」である。
ビスケットと聞くと、丸くて薄いお菓子を思い浮かべるが、山口シェフが焼くチェダービスケットは手のひらサイズのサイコロ型だった。
しかも表面にはこげたような突起が無数にあり、ビスケットというよりも宇宙から飛んできた隕石のようだっだ。
さっそく実食。この店にはテラス席があり、買ったパンをすぐに食べることができる。
(これがビスケットなのか)首をひねりつつ、手で半分に割った瞬間、複雑な香りが弾け散った。
動物性の油脂のような香り。スパイスの香り。それらが入りまじった芳烈な香りにむせ返るようだった。
とくに動物性の油脂の香りは、ありえないが、芳しいラードのようだった。
思わずのどが鳴った。ひと口頬張った瞬間、凄まじい香りが口のなかに溢れかえった。
売り場に立つ山口シェフの奥様めぐみさんによれば、チェダーチーズの他、チャイブ(ハーブの一種)、カイエンヌペッパーを混ぜ込んでいるという。
「私もこのパンが大好きです。サワークリームをつけて食べるのが好き(笑)。ビールとあわせてもおいしいです。リベイクしたらもっと香りを楽しめると思います」
山口シェフは、『ル パン ドゥ ジョエル・ロブション』で統括シェフをつとめるなど、ロブションのパン職人として日本、ニューヨーク、パリなどで20年以上研さんを積んだ。
独立し、二子玉川に初めて自分の店をオープンさせた。
取材前に一度パンを買いに来た。いろいろなパンが並んでいるなかに、大好きな「カヌレ(240円)」があった。