甘くて、精緻で、豊満で濃厚な「カヌレ」
手で割ったらラム酒の豊満な香りと、とろけるような甘い香りが弾け散り、鼻孔を刺激した。山口シェフはパン職人であり、調香師でもあると思ったものである。
渋谷の『ル パン ドゥ ジョエル・ロブション』にもカヌレが並んでいるが、親指の第一関節ほどのミニカヌレを焼いている。
その話を山口シェフにしたところ、「スナック感覚のカヌレではなく、伝統的なカヌレを焼くことにしました」と話してくれた。
山口シェフが焼くカヌレは、皮がパリパリで、芯はしっとりとしていて、甘くて、精緻で、豊満で濃厚。カヌレ好きならば、二子玉川の調香師が焼くカヌレを食べるべきだと思う。
日によってチョコレートを変えている「パン オ ショコラ」
「パン オ ショコラ(400円)」の香りも見事だった。サクサクに焼き上げたクロワッサン生地のなかにチョコレートが入っていた。日によってチョコレートを変えていると、めぐみさんが教えてくれた。
「フランスのチョコレート・メーカー『ヴァローナ』が作った、複数のチョコレートを使っています。今日のは『エキストラビター』です」
その他、ナッツの香りとカカオのバランスがいい「カラク(カカオ56%)」、ヘーゼルナッツの香りがする「アゼリア(カカオ35%)」、バニラの香りがする「ジバララクテイ(カカオ40%)」、甘さ控えめのミルク・チョコレートの「キャラメリア(カカオ36%)」などを使っているそうだ。
「お客様には、今日はどのチョコレートを使っているのか説明させていただいています」
チョコレートの味は変わっても、サクサクでトロトロの食感は不変のはず。
3日かけて作っている「モラセス全粒粉パン(1100円、ハーフ550円)」
〈全粒粉でおこした酵母に全粒粉、バターミルク、モラセスを加え、3日かけて作っている〉とプライスカードに書かれていた。
「2センチ厚に切り、バターを塗ったり、蜂蜜をそえたり、生ハムをあわせて召し上がる人も多いです。トーストするとおいしいと思います」とめぐみさんが教えてくれた。
まずはそのまま賞味した。小麦の香りが心地よいという印象を受けた。焼くと香りがどう変化するのか、しないのか。
めぐみさんは「しっかりと焼いたほうがいい」というのだが、拙宅にはトースターがないこともあり、やや軽めに焼いてしまった。
バターを塗ったら甘みがより際立ったが、もっと焦げ目がつくぐらい焼いたほうがいいのかもしれない。
試してみようと思っていたら、鬼嫁に全部食べられてしまった。残念。
「カントリーブレッド」は山口シェフの自信作
もうひとつ、山口シェフがすすめてくれたのが、「カントリーブレッド」だ。
取材前、プライベートで来たとき、「クルミとレーズンが入ったカントリーブレッド」を買った。レーズンといってもドライではなく、まだ瑞々しさが残るレーズンがゴロゴロ入っていた。
めぐみさんによれば、山口シェフはカントリーブレッドのレシピを5種類持っているという。
「カントリーブレッド(プレーン。1100円、ハーフ600円、1/4は300円)」。
「盛りだくさんのカントリーブレッド(1210円、ハーフ650円)」。
「クルミのカントリーブレッド(850円、ハーフ450円)」。
「クルミとレーズンが入ったカントリーブレッド(1000円、ハーフ500円)」。
「雑穀のカントリーブレッド(1000円、ハーフ500円)」。
毎日、「プレーン」の他、フィリングが異なる2種類の「カントリーブレッド」を焼いていると聞いた。
5種類あるうちの、どれを紹介すべきかと山口シェフに尋ねたところ、「どれでもいいです」とのことだった。
つまり、「カントリーブレッド」はすべて山口シェフの自信作と思って間違いない。
この日並んでいた3種類のなかから「盛りだくさんのカントリーブレッド」を選んだ。
〈イチジク、レーズン、クルミ、フェンネルシードを使っている〉とプライスカードにある。
「レーズンは陰干ししたものなので、水分を多く含んでいます」とめぐみさん。
ドライフルーツに加え、フェンネルシードも入っているので、より複雑な香りを放っていた。しかも食感、歯ごたえ共に愉快なパンだった。
パン職人であり、調香師でもある山口シェフが焼くパンは、味も香りも見事。
香りを伝えるアプリがないのが残念でならない。自分の鼻と舌で山口シェフのパンを愉しんでもらうしかない。これまで体験したことのない味わいと複雑な香りのパンが待っているはずだ。
追伸。取材の1週間後、「チェダービスケット」を買いに出かけた。どうやらこのパンに病みつきになってしまったようだ。
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