らしくない点1――必殺技や修行シーンがない

逆に銀さんが、いや『銀魂』という作品自体が決定的に異質なのは、主人公に必殺技が存在しない点だ。

『ドラゴンボール』にはかめはめ波や界王拳があるし、『ONE PIECE』『BLEACH』『ハンターハンター』などバトル系漫画に必殺技の概念は欠かせない。『テニスの王子様』や『黒子のバスケ』などスポーツ系タイトルでさえ、いまや能力バトルが主流だというのに。

『銀魂』が必殺技を出さない理由は不詳。作者の空知氏も自覚はあるらしく、必殺技が出ないからゲーム化は困難というネタを出したり、銀さんの木刀に宿った精霊(洞爺湖仙人)がなんとか主要キャラたちに必殺技を開発させようと奮闘するネタが描かれたりしている。

また、修行シーンが描かれないのは『銀魂』に限らず、近年のジャンプ漫画に共通して見られる傾向だと言える。『ハンターハンター』『NARUTO』のように修行シーンを描く人気作もあるにはあるが、割合としては昔のジャンプより減少した。本編中でも作者が銀さんの口を借りて「ジャンプも修行編とかやる漫画少なくなってきただろ」と言わせていたりする。

この特徴は悪いことばかりではない。そもそも銀さんは江戸末期から伝説的な豪傑と言われていたわけで、今さら派手なパワーアップは逆に不自然だ。必要なときにだけ怒りや絆によって全盛期の力を取り戻せればいい。

なにより『ドラゴンボール』をはじめジャンプ漫画の致命的な欠点――極端なパワーインフレ――が起こりにくく、バトルシーンが単調にならず済むメリットのほうが大きいのではないだろうか。
 

 らしくない点2――キャラの中身が完全に“オヤジ”

『銀魂』をあまり知らない人が「かわいいキャラが多いよね」と言った際、ファンはたいてい「でも中身はオヤジだよ」と答える。そう、男女問わず美形キャラが勢揃いする『銀魂』だが、見事なまでに全員の内面がオヤジなのだ。

主人公の銀さんはその筆頭格。少年誌なのに風俗店のネタを平気で連発し、1ページ目から猫の交尾について女子相手に淡々とレクチャーしたりする。そんなセクハラ発言を聞かされた可憐な女子たちも負けてはいない。本気で恥じらうキャラなどいないに等しく、むしろ男たちがドン引きするリアクションを返すことも多い。たまにウブな反応を示すキャラ(柳生九兵衛ちゃん)がいたりすると、それはもう気の毒な展開になる。

男女ほぼ全員がオヤジということもあり、ジャンプ漫画のバトルヒーロー、とりわけ二十歳を超えた青年キャラとしては珍しく、銀さんに今のところ本気の恋愛イベントは発生していない。どうやら彼は一方的に女性から惚れられるだけの存在で、恋愛については脇役キャラ同士が進めていく方向性のようだ。

近年の少年ジャンプにはいわゆる“ラブコメ枠”が用意されていて、ラブコメ戦国時代と呼ばれていたりする。一作品ですべてを揃えるのではなく、恋愛要素はそっち専門の作品に任せようという編集部の方針が『銀魂』を恋愛イベントの縛りから解放しているのかもしれない。おかげで読者は『幽遊白書』や『北斗の拳』のように「あれ?ヒロイン誰だっけ?」と悩まずに済む。