変なヤツがいるみたいな目で見られた瞬間は何度もあった

撮影/奥田耕平

矢野はずっと生きる希望を感じられずにいた。どこにも自分の居場所を持てずにいた。その空洞めいた存在は、特殊なようで、どこか現代人の持つ共通の虚無感にも見えた。

「僕も自分の居場所がわからないという時期は結構ありました。と言うのも、母がハーフで、僕はクオーター。小さい頃は毛も茶色いし目も茶色くて、イジメまでいかないですけど、なんか変なヤツがいるみたいな目で見られた瞬間は何度もありました。学校はインター(ナショナルスクール)だったので、学校に行ってしまえば楽だったんですけどね。一歩外に出ると、居心地の悪さはずっと感じていて。

しかも、日本にいたら日本にいたでクオーター扱いされて、アメリカに行ったら今度は日本人扱いされる。結局自分は何なんだろうと思うことはありましたね」

他人と違うことによって生まれる、疎外感。宮沢氷魚が、自己を受容できるようになったのは「この仕事を始めてから」と明かす。

「この仕事をしていると、みんなと違うことがいいとされる。僕自身、どういう人間かわからない役とか、オーラを持ってる役でお声がけいただけることがありがたいことに多くて。それってみんなと何かが違うからだと思うんですね。人との違いが、自分のひとつの武器になった。そう実感できるようになって、ようやく肯定できるようになりました」

撮影/奥田耕平

宮沢氷魚の表現者としての武器は、間違いなく目だろう。その色素の薄い瞳は、深い湖を見ているように不思議と人の気持ちを落ち着け、人の気持ちをざわめかせる。宮沢自身は、自分の目についてどう思っているのだろうか。

「気に入ってますよ。綺麗な目だなって(笑)」

そう自分で言って、恥ずかしそうに笑ってから、まるで照れ隠しのようにこんなエピソードを付け加える。

「大変なのが、色素が薄いと眩しいんです。外のロケでレフ板を入れると、眩しくて目が開かない(笑)。外国とか行くとみんなサングラスしてるじゃないですか。あれはね、カッコつけてるんじゃなくて、本当に目が開かないからつけてるだけなんです。でも、日本でサングラスをしてると、友達からも『芸能人ぶって』とからかわれるので、あんまりつけないようにしてます(笑)」

だが、その目が矢野の心を物語った

「矢野は言葉で語らない分、表情とか佇まいが大事になってくるなとは台本を読んだときから感じていました。その中でもいちばん気をつけたのは、目。序盤は目の輝きがまったく失われた状態からスタートして、美流と出会い、変わっていく中で、どんどん目に光が帯びてくる。矢野の心が希望で満ちあふれていくのを目で表せたらというのは、ずっと意識していました」