映画は、俳優にとってタイムカプセルのようなものだと思う。撮影から公開まで1年以上の時間を要することも珍しくない。ひと目にふれる頃には、スクリーンにいる自分はずっと以前の自分だったりする。完成した作品を観るのは、俳優にとって一生懸命役と向き合っていた過去の自分を掘り起こす作業となる。
「だから、自分の演技を見るのが嫌だなと思うこともあります。でもそれにも意味があるんだと思いながら、こうやって今も取材を受けています」
そういたずらっぽく笑って答えた杉野遥亮が、今回掘り起こしたタイムカプセルは公開中の映画『バイオレンスアクション』。
普段はゆるふわ専門学生。でも実は凄腕の殺し屋・菊野ケイ(橋本環奈)。とびきりキュートで、とびきり強い最強のヒットガールの活躍を描いた本作で、杉野遥亮はヤクザの金庫番・テラノを演じている。
抜け出したいけれど抜け出せない心境が、テラノとリンクした
「この作品を撮っていたのは、舞台『夜への長い旅路』や映画『やがて海へと届く』のもっと前なんです。どうやって役と向き合っていくかを模索していた時期でした。もっと何かできることがある気がする、やりたいことがある気がすると思いながらも、それが何なのかはまだわからなくて探している最中でした」
役づくりについても、どんなスタンスで臨むべきか、当時はまだ迷うことが多かった。
「当時はまだちゃんと役のバックボーンとかそこまで考えられていなかったと思います。どちらかと言うと、意識していたのは外側の部分でした。やっぱりヤクザだし、眉間に力を入れてやった方がそれっぽく見えるかなとか、この一行の台詞にどこまで感情を込められるだろうとか、そういう外側の見え方を気にしていた時期でした」
経験を重ねて、今は役づくりのアプローチもずいぶん変わった。
「今は外側より内面重視です。ちゃんと内面をどれだけ積み上げていけるかが芸術だなって考えるようになりました。そういうふうに考えるようになったのは、やっぱり舞台をやってからだと思います。役に寄り添うことを考えられるようになってから、芝居が変わった実感があります」
だが、それは決して昔の自分を否定しているわけではない。
「昔の自分を見て、今の自分は成長したなとは感じます。でもこうやって時間が経って振り返ってみることで、俳優として抜け出したいけれど抜け出せない心境が、ヤクザから足を洗いたいけれどできないテラノという人間にうまくリンクしていたところはあったのかなとも思っています。あのときの自分にしかできないテラノだった気はしています」