つい2、3年ほど前、右も左もわからず中学受験を目指し始めて、あっという間に子どもの受験直前まできてしまったと感じるパパ・ママは多いはずです。

大人が感じるよりも、子どもが感じる時間の進みは遅いもの。数年にわたって中学受験に焦点を当てて勉強を頑張ってきた子どもたちの努力は相当なものです。

しかし、もうすぐその努力が発揮されるというタイミングで、ややネガティブな変化が子どもに訪れることも少なくありません。

今回はカフェスタイル型勉強会「Mama Cafe」やVoicyの「Mama Cafeラジオ」で日々ママたちからの相談に答える、教育デザインラボ代表理事の石田勝紀さんに、受験直前に子どもが陥りがちな状態と、それに対する親の上手な対応方法を紹介します。

受検直前、子どもが見せるネガティブな変化

——石田先生、よろしくお願いします。受験直前の子どもに見られる、ネガティブな変化にはどのようなものがあるのでしょうか?

石田勝紀さん(以下、石田)「大きくは3つに分けられると思います。まず1つ目は『成績が伸び悩む・落ち込む』、2つ目が『過去問で点数が取れない』、そして3つ目が『中学受験への意欲がなくなる・やめたいと言い始める』ですね」

成績が落ち込んできた…そんな時は?

——親からすれば気が気ではありませんよね。そんな変化が見られた時、親はどのように対応すれば良いのでしょうか?

石田「まず1つ目の『成績が伸び悩む・落ち込む』というものですが、これに関しては親も子どもも大きな勘違いをしています。

実は、そもそも『成績が落ち込む』ということは、受験直前においてはあり得ません。

例えば、大人のように学生時代にやった数学の勉強からは何年も離れている、という状況であれば“以前にできていたことができなくなる”ということもあり得ますが、中学受験に向かっている子どもは基本的にはコンスタントに勉強しているはずです」

——つまり、「そもそも成績は落ち込んでいない」ということでしょうか?

石田「そうですね。スランプは錯覚です。

受験直前はスパートをかけて勉強する子もいれば、稀にその時期にやっと成績の成長角度が上がってくる子もいます。つまり、周囲が変化しただけで本人は変わっていない、ということがほとんどです。

模試などの点数を見て『成績が落ちた』感じる場合も、たまたまこれまでに解いたことがない知らない問題が出てきただけということも多いです」

——しかし、「成績が変わっていない」ということは「伸び悩んでいる」という認識になりませんか?

石田「実はその『成績が伸び悩んでいる』というのもまた間違った認識です。

先ほども話したように、中学受験に向かう子どもはやる気がなかなか出ない日などがあれど、日々コンスタントに勉強をしているはずです。

勉強は学んだ分、確実に成長します。ただ親も子どもも『伸び悩んでいる』と勘違いしているだけで、実力は微増ながら確実についているのです。

親がまず、『受験直前の成績の落ち込みや伸び悩みは勘違い』であるという認識を持っておきたいですね」

——実際、その勘違いを是正しないことには、子どもへの声がけにも影響しますよね。

石田「そうですね。なぜ勘違いなのか? というロジックを親がしっかり持っていないと、ただ単なる感情言葉での励まししかできなくなってしまいます。『大丈夫だよ』『そういう時もあるよ』というような根拠のない感覚的な慰めの言葉ですね。

しかし、子どもは親が思っている以上に、ロジックで物事を自分の中に落とし込みます。

成績の伸び悩みや落ち込みが勘違いであることをロジカルに説明するには、わかりやすい事例を挙げて話すのが良いですね。

わかりやすいのが自転車の例です。自転車の乗り方を覚えたら、数日、数週間乗っていなくても、普通に乗ることができますよね。勉強もそれと同じで、今までに学んできたことを急激に忘れることはありません。

たまたまこのタイミングで、周囲の変化と自分の変化を相対的に見て『スランプだ』と勘違いしてしまっただけで、学力が落ちたわけではないということを論理立てて説明してあげましょう。

受験直前期の学力というものはそう一気に上がったり落ちたりするものではありません。親が子どもの気持ちをいかに安心させられるかがカギになります」