子どもにせがまれるたびに抱っこをしていると、「抱きグセがつく」と言われたことはありませんか?
特に年配世代の方から、「甘やかしている」「子どもをダメにする」など、“抱っこの害”の指摘を受けた経験、一度はあるかもしれません。
「抱きグセ」という考え方は、戦後、欧米式の育児が急速に広まったことが背景にあるようです。
しかし最近ではむしろ、乳幼児期に抱っこなどの温かなスキンシップが足りないと、情緒不安定になりやすい、キレやすい、自尊感情が低いといった、マイナスの影響につながることが指摘されています。
「もう大きくなったし、抱っこは卒業かな」……と思っていた方も、ちょっと待ってくださいね。卒業なんて、もったいないですよ!
皮膚と心はつながっている。体の温かさが心の温かさも育む
身体心理学者・山口創氏の著書『幸せになる脳はだっこで育つ。-強いやさしい賢い子にするスキンシップの魔法-』によると、赤ちゃんは「触覚」をほぼ完成させた形で生まれてくるといいます。
ヒトの五感(視覚・聴覚・触覚・嗅覚・味覚)のうち、最も早く発達するのが「触覚」で、皮膚から受けるいろいろな情報は脳にダイレクトに伝わり、脳を活性化します。
皮膚からの気持ちのいい刺激はやすらぎを感じさせ、脳の発達によい影響を与えるといわれています。
「体の温かさ」と「心の温かさ」には、密接な関係があります。体にやさしく触れられたり、抱っこされたりして皮膚に温かさを感じると、大脳の「島皮質」という部分を介して、人に対して温かい気持ちが高まる、というメカニズムがあるそうです。
この神経回路は、人間に初めから備わっているわけではなく、抱っこなどによるスキンシップ、それによって安心感を得て温かな気持ちになる、という経験を幼いうちから何度も繰り返すことで、密に育まれていくのだとか。
小さい頃の密接な触れ合いやコミュニケーションの記憶は、記憶として覚えてはいなくても、脳の奥にずっと残り続けます。
人との触れ合いを快く感じるかどうか、不快に感じるかどうかは、その脳の奥深くにきざまれた触覚記憶の良し悪しに左右され、また、小さい頃のスキンシップが多いと、自分と他人との心理的距離が近くなることがわかっているとも。
温かなスキンシップの経験が、その後の人生に影響する心の基盤づくりに大きくかかわっているのです。
抱っこで親子の絆を深める「オキシトシン」が分泌。心や体の成長も助ける
温かなスキンシップには、「やすらぎ」や「リラックス」をもたらす効果があります。この反応に深くかかわっているのが、脳内に作られる「オキシトシン」という物質。最近耳にする機会も多いかもしれません。
『オキシトシン―私たちのからだがつくる安らぎの物質』によれば、オキシトシンには、ホルモンとしての働きと、神経伝達物質としての働きがあり、体じゅうに多彩な作用をおよぼすといいます。
ところで、人間がストレスを感じたとき、体にどんな反応が起こるか、ご存知でしょうか。