おいそうなパンが並んでいるがすべてヴィーガン
麻布十番にオープンした『Te cor gentil(テコールジャンティー)』では、ヴィーガンパンだけを焼いている。
起業したのは某化粧品会社。祖父も父もパン職人だったことからパン屋を開業しようと思ったものの、パンとは無縁だったことからパン業界に顔が広い大谷えり子さんにパン職人の人選を依頼。
その監修を原宿にあった『なんすかぱんすか』のオーナーシェフだった青柳吉紀さんに頼んだ。
ところが。
青柳シェフは「グルテンフリー、低糖質のパンを作ったことはありますが、ヴィーガンは未経験」。ヴィーガンパンを作るにあたり、日本で流通しているヴィーガン対応の食材をできる限り集めた。ひとつひとつ食材の味を確認しながら、理想とするパンをめざした。
「ヴィーガンパンを作るにはプラントベースと呼ばれる食材が欠かせません」
大豆やアーモンド、ココナッツなどを原材料とするプラントベースの食材を使うのだそうだ。
取材時、青柳シェフはクロワッサンを作っている真っ最中。
プラントベースのバターをなめさせてもらった。味わいはほぼバター。けれど、乳製品のバターに含まれるコクや深みや香りはない。
これが現在日本で作られているプラントベースのバターの限界だと青柳シェフはいいきる。
「そのなかでうちで作っている約20種類のヴィーガンパンはどれも満点。現状ではこれ以上望めないぐらい完成度は高いです(笑)」
約20種類のパンの中から食べてほしいパンを5つあげてもらった。
青柳シェフイチ推しのパン5つ
バターの香りこそないがサクサクな「クロワッサン」
まずは「クロワッサン(440円/以下すべて税込)」から。
「クロワッサンの定義を厳守しながらヴィーガンのクロワッサンを作りました」
パン好きならば誰しもクロワッサンのイメージを持っているはずだ。手に油脂がつく。齧った瞬間、18層に重ねた薄い皮が、パリパリサクサクと音を立ててくずれ落ちる。プラントベースのバターを使いつつもクロワッサンを限りなく忠実に表現していると断言できる。
ただし。
プラントベースのバターを使う以上、バター本来の香りはない。齧ったときの音も食感もクロワッサンそのものだが、香りだけは致し方ない。が、これはこれで十分うまいと思った。
厨房でヴィーガンカレーを手作り「カレーパン」
続いて「カレーパン(430円)」。
パン屋の多くが既製品のカレーを用いたカレーパンを作っている。ところが、ヴィーガンでは既製品を使えない。
肉や肉由来のエキスが入っているからだ。そのため麻布十番のこの店では厨房で玉ねぎや人参、代替肉を炒めスパイスで味付けをしている。冷やしたものをパン生地で包み、米油で揚げる。
作り手がはっきりしているので、安心して食べられる。
あんこも丁寧に手作りしている「あんバター」
パン屋のスタンダードになった「あんバター(440円)」もあった。
「塩パンに、自家製無添加のあんことプラントベースのバターをはさんであります」
塩パンの表面がカリカリでうまい。塩気があるパンと自家製のあんこがマッチしているし、そこにプラントベースのバターの油脂が加わり、満足度120%。
クロワッサンと違いバターの香りを求められないパンは、プラントベースのバターでも満足できる。