フセイン料理長は、デリーからちょっと離れた場所で生まれた。

「インドでは男性は厨房に立ちません。でも、小さい頃から料理に興味を覚え、お母さんに料理を教えてもらいました」

15歳で料理修業をスタートさせたフセイン料理長の経歴を紹介する。

1968年、『ハーフィズホテル』(デリー)に勤務。その後、『カリームホテル』(デリー)、『ムンバイタージマハルホテル』(ムンバイ)で料理を研さん。

1982年に来日。タージマハルホテル系列『タージインドレストラン』(赤坂見附)の総料理長

に就任。『アジャンタ』(九段下・麹町店)のシェフに続き、『シターラ』(青山店)、『シターラダイナー』(品川エキュート店)のシェフを歴任。

そうそうたる経験を積んできたが、2021年に独立。間借り営業の『インド宮廷料理 マシャール』(大田区池上)をオープン。

満を持して2022 年7月、現在の場所にマシャールを開店した。

開業間もないマシャールが、2023年年末発行の『東京最高のレストラン2023』に紹介された。同書は弊社が22年発行し続けているレストランのガイドブックだ。

【インド宮廷料理 マシャール】『東京最高のレストラン2023』(ぴあ発行)にマシャールが紹介された

松浦達也さんが書いたマシャールの紹介文を一部掲載する。

「オープンすると聞いて、インド料理界が色めき立った。スパイス界の大御所、渡辺玲氏や『初台スパイス食堂たんどーる』塚本善重氏が師とも仰ぐ、フセインシェフが手掛けるインド宮廷料理(ムガル料理)の店だからだ」

渡辺玲さんにインド料理を学び、独立した人も少なくない。その渡辺さんが、フセイン料理長を師と仰いているというのである。

日本におけるインド料理界の重鎮。それがフセイン料理長だ。

フセイン料理長がこれまで作ってきたのは、松浦さんの文章にもあるようにムガル料理と呼ばれる宮廷料理だ。

ムガル料理は16世紀~18世紀に栄えたムガル帝国の宮廷料理。マシャールでは、ムガル帝国時代に食べられていた宮廷料理のビリヤニも供している。

ビリヤニは炒飯だと私は勝手に解釈していた。ところが、炒飯でも炊き込みご飯でもないようだ。

【インド宮廷料理 マシャール】 左上のライタ(スパイスが入ったヨーグルト)をビリヤニに付けて賞味する

どうやって作るのか、フセイン料理長に聞けなかったが、パラパラに調理したバスマティライスが印象的だった。

このビリヤニにライタを付けて食べる。酸味とやや塩味を含むライタをビリヤニにそえた途端、味変する。

私にはインド料理を表現する知識もボキャブラリーもない。けれど、フセイン料理長のこのひと言が、マシャールの料理を象徴していると思った。

「うちの料理はインペリアルなインド料理です」

カレーはもちろん、タンドリーチキンもフィッシュティッカもシークカハーブもすべて荘厳で、最上級のインド料理。

すなわち、町インドの真逆。

それがフセイン料理長が供する、マシャールだ。

【インド宮廷料理 マシャール】

【インド宮廷料理 マシャール】

住所/東京都大田区大森北1-10-14 LUZ大森 3F
電話/ 03-6450-0177
営業時間/11:00~15:00(LO14:30、17:00~22:00(LO21:00)
土日祝11:00~16:30(LO16:30)、17:00~22:00(LO21:00)
定休日/火曜
日祝日もランチセットを実施している

東京五輪開催前の3歳の時、亀戸天神の側にあった田久保精肉店のコロッケと出会い、食に目覚める。以来コロッケの買い食いに明け暮れる人生を謳歌。主な著書に『平翠軒のうまいもの帳』、『自家菜園のあるレストラン』、『一流シェフの味を10分で作る! 男の料理』などの他、『笠原将弘のおやつまみ』の企画・構成を担当。