「今しかねえんだよ」という気持ちはすごくわかりました
――何度も観返したくなる素敵なシーンでした。ご自身で完成作を観たときはどう思いましたか。
自分で「こうだった」とジャッジするというより、観てくださった方に「どう受け取ってもられるんだろうか」という想いが大きいです。もちろん乗せた気持ちが伝わればいいなと思ってやっていましたし、自分の全力は尽くせたと思っているので、あとはどう受け取ってもらえるのかが楽しみです。
――クライマックスの翔吾と中西の試合はもちろん見応えがあるのですが、大塚との試合があったからより感動することもありました。
確かに、大塚との試合から、中西との試合へのちょっとしたバトンの受け渡しみたいな場面があって、僕としては超胸アツでした。
翔吾が練習中に、中西との試合のときに大塚の動きを織り交ぜていきたいという話をするんです。僕ではなくて松浦さんが考えた動きですけど(笑)、そのシーンを観ているときは大塚と同化して、めっちゃうれしくて泣きそうになりました。
――本作ではキャラクターたちのいろんな形の“夢”との向き合い方が描かれていると感じました。例えば、翔吾であれば、“夢”がなければ死んでいるも同然という考え方であったり、仁一(佐藤浩市)であれば、一度捨てた“夢”を諦めきれずに再び“夢”の世界に戻ってきたり、健三(片岡鶴太郎)であれば、諦めた“夢”とはまた違う“夢”を見つけたり。坂東さんはどのキャラクターの“夢”との向き合い方に共感しましたか。
それで言うと、翔吾に共感します。もし自分があの立場に置かれたことを考えると「今しかねえんだよ」という気持ちはすごくわかりました。僕もたぶん同じように言うと思います。その瞬間にしか生きられないことって絶対にあって、来年じゃダメだし、来週でもダメだし。
けど、そうは思っていても実際にできないこともあるからこそ、より翔吾に共感するんだろうなとも思ったり。今後、僕が大きなケガや病気を絶対にしないとはいい切れないし、もしそうなったときに自分はどうするんだろうな?と。
「この作品にすべてをかけてもいい」と思いながら撮影している中で、自分はどこでストップをかけられるんだろうか?とかを想像すると、翔吾のセリフにはすごく共感できるものがありました。
きっともっと年を重ねていけば、仁一や健三の気持ちも汲めるようになるんだろうなとも思いますけど、今はやっぱり翔吾ですね。
でも大塚と一緒で、新しい選択をすることも頭の片隅にはおいて生きています。役者以外の職業をしている自分を全く想像していないわけではないです。その上で、翔吾のように夢と向き合えたらと思っています。
*(後編に続く)後編では『バカ塗りの娘』でのエピソードを中心に、現在の俳優としての境地など、坂東さんのパーソナルにも迫るお話を聞いています。
作品紹介
映画『春に散る』
2023年8月25日(金)より全国公開
映画『バカ塗りの娘』
2023年9月1日(金)より全国公開