この世の中でいちばん怖いことは何ですか?

――ちなみに、みなさんがいままでの人生の中でいちばん怖かった出来事、あるいは、この世の中でいちばん怖いこと、怖いものは何ですか?

窪塚 自分が自分自身でいられなくなるときですね。大ケガをして、人と上手く話せなくなったときが本当に嫌だったので、あれがまた起きたら怖い。

もちろんそうならないように、自分を信じて、身を引き締めて歩いてきたつもりですけど、あんな経験は二度とごめんです。

窪田 (少し考えて)学びと興味を失うこと…かな。

学びや興味って生きる活力だと思うから、そういうものがまったくなくなって、ただ生きているだけになったときかいちばん怖い。

せっかくある限られた時間を、何のために生きているのか分からない状態で生きるのは嫌だなって強く思うので、僕の場合はそれですね。

齊藤 「“正義”と相対するものは“悪”ではなく、もうひとつの“正義”だ」と宮﨑駿監督が語っているんですけど、それがまさにいま現実社会で摩擦を起こしているのかなと思います。

是枝裕和監督の『怪物』(23)もそうですけど、実はこの作品も原作ではひとつの事象が賢二だけではなく、住宅会社の社員の本田や賢二の娘のサチなどいろいろな角度から描かれているんですよね。

そういった、反対側から見える景色を自分が失ってしまったら怖いなと思います。

『スイート・マイホーム』 ©2023『スイート・マイホーム』製作委員会 ©神津凛子/講談社 配給:日活・東京テアトル 9月1日全国公開

本作の撮影現場の環境が劣悪なそれとは違う心地よいものだったことが3人の話を聞けば聞くほど伝わってきて、そういう場所でしか洗練されたクリエイトが起こり得ないことを改めて実感。

と当時に、映画オタクとは一線を画す齊藤工監督のただならぬ才能と確かな眼差し(演出)を知ることができ、第一線の実力派俳優たちが彼のもとで自らの力を全開させたことも分かった。

映画『スイート・マイホーム』の“恐怖”は、そんな齊藤監督とキャスト、スタッフが英知を結集して産み落としたもの。だから、怖かったはずなのにもう一度観たくなるのだ。

映画ライター。独自の輝きを放つ新進の女優と新しい才能を発見することに至福の喜びを感じている。キネマ旬報、日本映画magazine、T.東京ウォーカーなどで執筆。休みの日は温泉(特に秘湯)や銭湯、安くて美味しいレストラン、酒場を求めて旅に出ることが多い。店主やシェフと話すのも最近は楽しみ。