斎藤工の現場のこだわり
――監督の今回の現場のこだわりを教えてください。
齊藤 ちゃんと白旗を挙げようとは思っていました。
好きな映画をただ観てきただけで、血と肉が宿っていないのに、憧れていた監督のイメージだけで現場に立って、さも知識があるかのように決めつけた演出をしたら、各セクションの職人さんたちがアシスタントも含めて受身になってしまう。
もちろん、そのよさもあるとは思うんですけど。キャストだけじゃなく、スタッフの方々にも才能を遺憾なく発揮していただく場所を作るのが監督の役割だと思っているので、「アイデアをどんどん出して欲しい」ということはみなさんにお伝えしました。
そうやって内側から出てきたものをすべてまとめるのは難しいけれど、子役の人たちも含め、とにかく受身ではなく、好奇心を持ってやっていただくことを心がけていましたね。
あと、寒い冬の現場でしたから、プロデューサー陣に「スタッフやキャストの食事のときに、温かい味噌汁をなるべく提供して欲しい」というお願いをしました。
見直すべき撮影現場の問題点は労働環境や労働時間などの外的要素もたくさんあるけれど、内側から変えられるものもあるし、食べ物がクリエイティブに直結する、画に出るという確信を持っていたので、それは言わせてもらいました。
齊藤監督の演出で印象に残っていること
――窪田さん、窪塚さんは、齊藤監督の演出で何か印象に残っていることはありますか?
窪田 僕が印象に残っているのは、外出先から帰ってきた賢二が新居の周りに張られた事件現場の黄色いテープをくぐって、ある人物が不慮の死を遂げた2階へと駆け上がっていくシーンの撮影のときのことです。
あそこは、カメラが家に入るところからずっと僕の背中を追いかけてきて、倒れている人物に寄るところまでをワンカットで撮ったんですよね。
そのときに、後ですごく反省したんですけど、僕は最後のところでわざと横顔を見せたんです。
窪塚 画的にその方がいいと思ったんだね。
窪田 ずっと背中だけよりも一瞬横顔が見えた方がいいんじゃないかという勝手な心理が働いてしまったんです。
監督から「すいません。背中だけを映したいんです」って言われて、いまの形になったんですけど、あのときは、なんて恥ずかしいことをしたんだろう?って思いました。
齊藤 いやいや、(役者の)当然の心理ですよ。
窪田 帰宅したら、自分の真新しい家の中でとんでもないことが起きていて、警察官がいっぱいいるわけじゃないですか!
そのときの“なんじゃ、こりゃ?”って慌てふためいている感じを背中だけで出せる自信がなかったから、無意識のうちに自分の防衛本能が働いちゃったんですけど、僕がプラスαをするなんておこがましい。あのときは本当に反省しました。
齊藤 いやいや、窪田さんの背中が物語をちゃんと語ってくれてましたからね。
それこそ実家のお母さんを抱きしめる終盤のシーンでは、最初はお母さんを演じていた根岸季衣さんの顔も撮っていたんですけど、窪田さんの背中だけですべてが成立しているなと思ったので、撮るのをやめたぐらいなんです。
窪塚 それを言ったら、僕はもう、すべてやり過ぎた感じ(笑)。
齊藤 とんでもないです(笑)。
窪田 (爆笑)
窪塚 ただ、さっきも話したように齊藤監督は懐が深いですからね。
子どもたちのいる現場は本当に大変で、俺が監督だったら撮影の2日目にはブチ切れそうだけど、怒らずにやっている。
そんな精神的に我慢が効くのも才能だけれど、だからこそ安心感があって。
自分は父親や母親、賢二との関係から聡のバックボーンを考え、何者かの視線に脅える彼のキャラクターを作り上げることに専念できたんです。