撮影:石井 小太郎

ある雨の日。無人のエレベーターに残された誰かの香りから、11年前に自分のことを「三井くん」と名前で呼んでくれた彼女のことを思い出した三井(高良健吾)は、もう一度、あの幸せな感覚に触れたいと思い、彼女を探し出す。

結婚し、一児の母となっていた千尋(西川可奈子)を見つけ、その近所に引っ越し、彼女を監視するようになった三井だったが、今の千尋にはあの頃の輝きはなく、やがて千尋を襲う衝撃の事実を見つけてしまう。

ただ名前を呼んで欲しい、その純粋な想いが、徐々に狂気へと形を変えていく。自分が本当に求めているものが何かも理解できずに、目の前で起こる出来事に翻弄されていく三井の行く先は不幸なのか、幸福なのか。

7月19日(金)より公開の映画『アンダー・ユア・ベッド』でそんな難しい役どころを演じきった高良健吾に、三井への想い、今作にかける期待など、じっくりと話を訊かせてもらった。

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こういう役を「合っている」って言われるとちょっと複雑(笑)

©2019 映画「アンダー・ユア・ベッド」製作委員会

――まず今作のオファーを受けたときに、出演したいと思った理由を教えていただけますか?

それはいろいろあって。個人的な想いだったり、人とのつながりだったりとかもあるんですけど、芝居の面で言うと、僕が演じたこの三井という役が、最後にどういう表情をするのかな?っというところに惹かれました。そこを演じるのは楽しみでしたね。

――高良さんの中では一つの答えがあって演じられたのだと思いますが、観る人によって解釈が分かれるような表情だったように思いました。

そうですね。僕の中ではありました。でもそれをここで言うのは……。

――言う必要のないことですよね。

だからそれに近い答えを言うとしたら、“認められる”ってことが三井にとってどれだけ大きいことだったのか、ということですね。

撮影:石井 小太郎

――安里監督は脚本を作る段階から、三井役に高良さんをイメージされていたそうですね。

そうやって自分をイメージしながら書いてもらえるっていうのは、俳優として嬉しいし、ありがたいことですね。

――自分ってこういうイメージなのかな?って思ったりは?

それはないです。だって違いますもん(笑)。ただちょっと複雑ではありますよね。こういう役をやったときに「合っている」って言われると

――最初に三井というキャラクターに触れたとき、高良さん自身は三井をどんな人だなって思いましたか?

純粋、ピュア。じゃあこのピュアがどこでこういう風に変わったか、って言ったら、認められないことの積み重ねですよね。

親にも、周りにもってキツイし。

そんな中で、千尋が「三井くん」って呼んでくれた。あの瞬間が彼を支えていて、止めてもいてくれいたんだけど、そこからまた動き出すっていう。

“認められる”ということにすごい力があると、改めて感じた

撮影:石井 小太郎

――三井に共感はできましたか?

僕、演じる上で“共感”ってそんなに必要なことだとは思っていなくて。ただ“理解”は必要で、三井は理解できます。純粋過ぎるがゆえに、あそこまで行ってしまうんだと。

純粋さは誰もが持っているものだと思いますけど、それが“認められない”ってことで、あんな風に形を変えてしまう。

逆に“認められる”ということにすごい力があるっていうのを、この作品を通して改めて感じました。

――そんな三井を演じる上で心がけていたことは?

説明的になり過ぎないってことですね。

映画の作りとして仕掛けが多いし、僕はナレーションもあったので、そこで説明してしまうと面白くなくなってしまうと思ったので。

それから、物事を白と黒みたいに2つには分けずに、グレーゾーンを大切にしました。

この話を善と悪みたいなことで分けてしまってはもったいない、って。

あとは、現場では映画を観てくれる人のことは考えずに、カメラの前ですべてが終わるようにするっていうこと。お客さんにどう届けるか、というのは、(宣伝活動が始まった)今日から始まりますね。

――三井が周囲との接点が少ないキャラクターということもあって、相手とのやり取りの中で役を作るというより、一人で作ることが多かったように思います。受けるものが少ないというか。

“受け”ということで言えば、それって相手の芝居だけじゃなくて、現場にあるいろんなものから受けるものなので、それはどんな立場でもあるものなんですけど、ただ三井に関して言うと、一人でいることが多いからこそ、気持ち的に自分の足元くらいの範囲で終わればいいっていう感覚はありました。

カメラの手前ですべてが終わればいいっていう気持ちですかね。

自分が思ってなかった三井を、僕はやるべきだって思った

©2019 映画「アンダー・ユア・ベッド」製作委員会

――現場はどんな雰囲気でしたか?

安里監督とご一緒するのは初めてではあったんですが、なんか“安里組”という感じでした。若いスタッフが多くて、みんなが同じ方向を向いていて、そこにブレがなかったですね。

全員がやるべきことをきちんとやっている。

安里さんがすごく気合の入った方なので、現場を引っ張っていて、カッコ良かったです。

僕もそれに引っ張られていました。思い出すと胸が熱くなるようなエネルギーのある現場でしたね。

――監督とのやり取りで印象に残っていることはありますか?

安里さんは今まで僕がしたことのない作り方をしていて。

僕は現場に行って、まずは段取りとかテストで自分が準備してきたものを見てもらい、そこからどうしようかというやり方をしてきていたのですけが、安里さんは最初にそのシーンについて話し合いをして、方向性を決めてから始めるんです。

段取りやテストの前にそういうことをする監督は初めてでした。

結果、そのやり方はそれで良かったし、楽しかったので、やり方なんてどっちでもいいんだなと思いました。

©2019 映画「アンダー・ユア・ベッド」製作委員会

――監督が「同じシーンでもニュアンスを変えていくつか芝居をしてもらうことがあった」とコメントされていたのですが、それは高良さんが事前にいくつかのパターンを持っていたからなんでしょうか?

うーん、なんて説明すればいいのかな(苦笑)。

僕はいらないものを削りたくなっちゃうというか。ここまで説明的にやらなくても、そこを表現して想像させるのが僕らの仕事だし、それが映画でしょうと思うんですけど、ちょっと偏り過ぎてしまうところがあって。

それは単に僕個人の意見だから。

そこを安里さんはもっとお客さんのために、という意識があるから、こうして欲しいっていうのがあるんです。それをやっていったということですかね。

僕自身、それも必要だなと思うので、いくつかのパターンをやってみて、あとは(監督にどれを使うかは)お任せします、という感じでした。

――そうすることで三井としての気持ちのブレを感じたりすることはないんですか?

それは大丈夫です。ブレが面白いというか。僕と監督が思う三井にそんな差はないんですよ。毎回、話し合いもしているし。だけど、それでも何かズレが出るときは、僕はそれを楽しめます。

ブレたというか、自分が思ってなかった三井を、僕はやるべきだって思いますね。

――でも自分が三井をやる以上、三井のことは自分が一番わかっている、っていう自負もあるのかなと。

それはあります。それは持っていないといけないと思います。

けど、僕は「この役はこうじゃないと思う」みたいなのはあんまりないです。

もちろん自分が持ってきたものを信じることは必要ですけど、違うところにいくのも楽しいじゃんって思います。