100日目までを夫婦で乗り切ることが大事
「PMハウスはパパとママと赤ちゃんの絆を育み、子育てでわからないことを学んでいく施設です」とセンター長の志村さん。
とにかく最初の子育てに、不安と孤独はつきもの。
核家族化が進み、近所との交流も途絶えがちな現代では、先にあげた産後の落とし穴にはまらない方が少ない、とまで言えるかもしれません。
PMハウスの利用者は、毎日来る人がほとんどだそう。
その内容を考えると当然とも思えますが、その裏には、PMハウスを支えるスタッフさんたちの熱い想いがあると、藤田社長は言います。
「私は経営する立場ですから、休みなしなんて無理だって言ったんですよ。ですが、子育ての不安にクリスマスもお正月もない、というのがスタッフたちの主張で、その結果、今の365日オープン体制になったんです」
たしかに、夫の休みが土日でなければ、休日にさびしい想いをするママもいるでしょう。
「産後の100日目までが重要だと考えています。それまでを夫婦で乗り切れば、2人目のことを考えられる余裕が生まれると思うんですね」
と藤田社長。
志村さんによると、やはり産後3ヶ月くらいまでは、スタッフにいろいろ質問したり、相談したりするママが多いとのこと。
その期間を過ぎると、だんだんスタッフと話すより、利用者同士の交流がはじまるそうです。
パパトークがアツい!
PMハウスでは、月一回、趣向をこらしたイベントが開催されます。他にはない個性のあるイベント作りを心がけているのだとか。
先日行われたのは、パパと赤ちゃんだけが参加するイベントで、ファシリテーターは先輩パパであるスタッフが担当し、大人の参加者はほぼ全員男性。
結果、予定した2時間ではおさまらない熱気に包まれ、アツいパパトークが繰り広げられたということです。
男性脳は、共感しにくいと言われますが、初めての子育てだったり、同じ病院で出産を経験したりする共通項が多い条件下では、自然と共感するものなのでしょうね。
不安を解消するためには、自力でがんばるより、知恵や体験談をシェアした方が、ずっとラクだし、楽しい! と気づくのかもしれません。
焼き立てパンを食べながらのティータイムでは、何人かのパパの姿もお見かけしましたよ。
「落とし穴」にはまる前に
愛和病院では年間2800件のお産があるそうですが、産後のセカンドハネムーンを利用するのはまだごく一部だそうです。
決してお安くはない料金が利用しない理由かと思いきや、産後のアンケートでは、半数以上の人が、「そもそも検討しなかった。必要ではないと思った」と書かれるそうです。
なんでもそうですが、本当に危機になった時にはすでに遅い、ということがあります。
PMハウスの室内に貼られたスタッフの声のなかに、こんなものがありました。
「こんなはずではなかった…を無くしたい! 男は理屈で考える。だから確認が大事。
2人以外の人が側にいてくれる産後1年間の間に、2人でする子育てをしっかり確立しましょう。こんなはずではなかった…そんなことにならないために」
これは男性スタッフの書いた言葉だそうです。
スタッフには、育児経験者も多いということです。だからこそ、現場のリアルなニーズにとことん寄り添ったサービスが可能になるのでしょうね。
*
今のところ、産後ケア施設というと、ぜいたく品のようにとられることが多いですが、PMハウスを見学して思ったことは、産後うつや産後クライシス、ならびに子どもが小さいうちの離婚を減らすためには、これ以上いい方法はないのではないかということでした。
実の親が近くにいたとしても、むしろ親だから頼りたくない、頼れないというママもいます。また、親が、産後に適切なサポートと助言を与えられるとはかぎりません。
フランスでは、産後の女性の身体を産前の状態に戻す支援を国費でしていますし、同じアジアでは韓国は産後ケアに力を入れていて、産後を過ごす施設の利用は一般的と聞きます。
どちらの国も、ママになった女性を大事にする、ということが前提にありますよね。そして、大事にしてもらったママは、パパにも子どもにも優しくできるのです。
翻って、日本ですが、女性が輝ける社会を目指す、という目標が空々しく聞こえてしまうほど、産後支援は足りていません。それ以前に問題なのは、意識的な改革なのかもしれません。
自治体によっては、産後の家事・育児支援のヘルパーなどの利用助成を行っているところもありますが、結局使わなかった、という声を聞いたことがあります。まだ大丈夫、自分さえがんばれば、と思ってしまうのでしょうか。
多くのママがその調子だと思われますから、まずパパの意識改革にフォーカスしたPMハウスの取り組みは画期的。
こういった施設が増え、国の援助も増えることで、この国の子育てに笑顔が増えることを願ってやみません。