3:「規則性」を見つける言葉がけ
数や形を認識する力とともに「数学力」の基礎になるのが、規則性に気づいたり、発見したりする能力です。
この能力は、論理的な思考力とは違い、誰もが生まれながらにもっている直感的なパターン認識力に基づいています。
「同じアジサイなのに花の色が違うね」
パターン認識は無意識のうちに働く直感的な能力です。そのため、「教える」ことによって伸ばすことはできません。この能力を発揮できたとき、子どもは心の奥底から喜びを感じます。
子どものパターン認識の能力を伸ばすには、親が身のまわりの事物の中にある意味やパターンを認識し、わずかな違いも感じとるようにして、日頃から感受性のアンテナを張り巡らせておくことが大切です。
「同じアジサイなのに花の色が違うね。どうしてかな?」「葉っぱが落ちているね。強い風が吹いたのかな?」
このような親との交流を通して、子どもは生まれながらの直感力を発揮するようになります。
いくつかのもの集まりから仲間はずれを見つけたり、全体をグループに分類する遊びは、将来、数学で大切な「集合」の考え方にもつながっていきます。
4:「考える力」が育つ言葉がけ
将来どんな人生を歩むことになっても大切な「思考力」。答えを出すだけでなく、幼児期からいろいろな考え方ができる柔軟性を育てておくほうが、将来に向かって伸びていく「数学力」に結びつきます。
「どうしたらいいと思う?」
自分の頭で考えられるように子どもを育てるポイントは、2つあります。
1つは、子ども自身が考えなければ一歩も前に進めない状況を作り出すことです。もう1つは、自分の頭で考えてほしいという気持ちを、言葉で直接伝えることです。
例えばこんな場面がありました。
カフェの店先で、小さな女の子がお母さんに「自転車をどこに置けばいいの?」と聞きました。すると、そのお母さんは「どこに置けばいいか、自分で考えてごらん」と答えたのです。
そして、入口付近は地面が傾斜しているので、なるべく平らな所にとめた方が良いこと、通路の真ん中にとめると出入りする人の邪魔になってしまうことなどを丁寧に説明しました。
時間に余裕のない現代の生活の中では、子どもに考える機会を与えることは、もどかしく感じることもあるでしょう。しかし、子どもにとって、自分の頭を使って考え、とめる場所を決めた経験は、貴重な学びの機会になったに違いありません。
考える力はどんな困難にあっても自分で立ち向かっていく力、レジリエンス(ねばり強さ)となって、その子の人生を支えていくことでしょう。
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子どもの“数学の世界”が広がるちょっとした言葉がけをご紹介しました。毎日の生活には、子どもの数学力の興味を引き出すきっかけがたくさんあることがわかりますね。
著者:植野義明
東京大学非常勤講師、くにたち数学クラブ代表、日本数学会会員、数学教育学会代議員。東京大学理学部数学科卒、東京大学大学院で数学を専攻、理学博士。1986年より東京工芸大学講師、准教授。2021年4月、定年退任と同時に国立市で3歳から100歳までの人たちが数学の美しさに触れ、数学で遊び、数学が好きになれる場所として「くにたち数学クラブ」を設立、代表。著書に『考えたくなる数学』(総合法令出版)がある。