駅員さんおすすめの店へ
岡山駅で荷物を預けるついでに、駅員室で「おすすめの羊肉店は?」と聞いてみると、駅員が4、5人集まって、「やっぱり老舗のあそこだろう」「いや、俺はこっちのほうが好きだ」「その店はまだ営業前だ」などと議論が始まった。
いずれも屈指の人気羊肉店のようだ。岡山市民が羊肉好きなことはわかったが、なぜ岡山が羊肉で知られているのかと尋ねると、みんな首を傾げてしまう。
てっきり近くに牧場があるのかと思っていたが、それだけではないようだ。
気温は25度だが、まだ体が暑さに慣れていないせいか、高い湿度のせいか、ふうふう言いながら羊肉店まで10分ほど歩いた。
岡山が羊肉(ヤンロウ)=ヤギ肉で有名なわけ
目当ての店に近づくにつれて、雑貨店や飲食店が多くなっていく。どうやら朝市の近くらしい。これは期待できそうだ。まだ午前中の早い時間なので、市場は混雑のピークだが、周囲の飲食店は開店前。羊肉の店も数軒あるが、シャッターが閉まっている。
そのなかで、駅員さんイチオシの店だけが忙しそうに仕込みをしていた。さっそく開店したばかりの「正宗羊肉店」に入ってみる。専門店だけあってメニューには「羊肉」の文字がずらり。
まずは大骨湯(骨付き肉のスープ)を注文する。いかつい骨の周りによく煮込まれた羊肉がくっついている。手づかみでかじると、するっと肉が剥がれ落ちる。何時間煮るのだろうか? しっかりと味が染みている。今回の旅で初めての羊肉だ。
もうひとつは炒めものを注文した。羊肉といえば沙茶(サチャ)と呼ばれるカレーのようなスパイス炒めが一般的だ。
臭みのある羊肉に、香りを加えてごまかす意図があるのかもしれないが、クセの強い羊肉と南国の強烈なスパイスの香りの組み合わせは一度食べたら忘れられない。
沙茶のタレは我が家の冷蔵庫にも常備してあり、ときどき炒めものに使って台湾の味を楽しんでいる。
店の人に、なぜ岡山は羊肉で有名なのかと尋ねると、アルバイトらしき若い従業員は首を傾げ、店長を呼んできた。「ヤギ牧場が近くにあるんですか」と聞くと、店長は首を横に振る。
岡山の羊肉が有名なのは、実は肉ではなくタレのおかげ。岡山の羊肉食堂では豆板醤と味噌を合わせたような独特のタレが出てくる。実はこのタレ、戦後すぐに国民党政府とともに台湾に渡った四川の人々が作ったものなのだ。
いつからか、この豆板醤を羊肉につけて食べるようになり、メディアなどで取り上げられるようになってから、岡山=羊肉というイメージが定着したとか。
この店の羊肉が国産なのか輸入なのかは定かでないが、沙茶以上に肉の香りにマッチする「岡山豆板醤」が岡山の羊肉食文化を支えているのは確かなようだ。
(つづく)