雨季を迎えた台湾で、なんとか雨を避けながら鉄道移動してきたが、とうとう本格的な土砂降りに当たってしまった。
盲腸線の蘇澳駅からふたたび羅東駅へ戻り、そこから南下を始めると、大粒の雨が列車の窓を叩き始めた。
雨の中、たどり着いた宿で
次の下車駅はまたしても初めての町、関山(グアンシャン)だ。東部は未踏の駅が多いので、どこで降りても発見がありそうだ。
台湾各地で青々とした稲田が美しい季節。米どころの台東ならば広々とした水田が見られるだろうと、関山を選んだ。
しかし、車窓には重たい雲が垂れ下がり、激しい雨が視界をぼんやり白くしている。関山駅に到着する頃はもう暗いはず。スマホアプリで宿は押さえたものの、確認の返信メールも来ない。
しかも台湾ドルの現金が残りわずか。おそらくクレジットカードが使えない民宿なので、宿代を支払うと明日の足代が心配だ。
朝一番で日本円を台湾ドルに換金しなければ……。そんなことを考えながら、雨に濡れた関山駅に降り立った。
宿は駅から徒歩10分。タクシーを使う距離ではないので、大雨の中スーツケースを引いて歩くのだが、思ったよりもさびしい町で、さすがに心細くなってくる。
靴下までずぶ濡れになりながら、ようやく目的の民宿の看板を見つける。
ガラガラと引き戸を開けてみるが、小さなフロントに人の気配はない。
「すみませ~ん」と声をかけると、奥の方からスリッパの音をさせて女将さんが出てきた。スラリと背の高い、きれいな女性だ。こんな感じの昭和アイドルがいた気がするが、誰だっただろう?
「英語が全然読めないから、メールの返信もできなくて」と悪びれもせず笑う。エレベーターのない3階建ての宿の3階の部屋に、やっとの思いでびしょ濡れのスーツケースを運んだ。
最後の宿泊客を案内してホッとしたのか、女将さんはすぐにキッチンの奥に引っ込んでしまった。
夕食にいい店を聞かなければ。私はもう一度「すみませ~ん」と女将さんを呼び出した。
駅舎の規模や町の雰囲気から、早く店じまいをする店が多そうだ。
「宿を出て、角を曲がったところにある食堂、まだやってるかしらねえ」と曖昧な返事。
台湾の飲食店は客足の少ない雨の日など、早く店じまいをするところが多い。
私は宿代を抜いた現金を握りしめて、雨の夜道を歩き始めた。
女将さんいわく、この町には外貨を両替できるような銀行はないという。現金数百元(2000円足らず)で次の目的地、高雄まで行き着かなければならない。
列車の切符はクレジットカードか、最悪手持ちの悠遊卡(交通系プリペイドカード)で買えるはず。今夜の夕飯代と明日の朝食代でギリギリだ。
最初にもっと台湾ドルに両替しておけばよかった。台湾はまだまだ現金社会。昭和世代の私には、それがうれしくもあるのだが。