どしゃぶりの中、食堂探し
街灯が少ない、土砂降りで暗い夜道を数百メートル歩くと、すぐにその店が目に入った。雨に濡れて光る赤い看板がもの悲しい。
看板に『阿娟黒白切』とある。豚モツのスライスを扱う店だ。となるとビールも置いているはず。捨てる神あれば拾う神あり。台湾を旅していると、よくこの言葉を思い出す。
ことが思うように運ばなかったり、トラブルに見舞われたりしたあとは、だいたいそれを上回るようなうれしいことに遭遇する。
土砂降りで、のどかな田園風景の写真は撮れなかったが、1日の最後に最高の晩酌タイムが待っていた。
驚いたことに、店を切り盛りするのは若い東南アジア出身の女性だ。近年の台湾では、特に地方都市で東南アジアからの出稼ぎ労働者や移民が目立つ。
インドネシア、フィリピン、ベトナム出身の若い男女が飲食店を任されていることも多い。
私が台湾に暮らした1990年代、家政婦や介護の仕事をする外国人労働者が急増したのを覚えている。
だが2022年までにその数は70万人近くまでふくれ上がり、台湾先住民の人口を上回る勢いだとか。
かつて台湾には本省人、外省人、客家人、先住民の4大民族がいると言われてきたが、今はそこに外国人移民が加わりそうだ。そう言えば、南方澳の港でも、外国籍らしき漁師たちやその家族を多く見かけた。
カラオケとビールと魯肉飯
関山の食堂を仕切る小柄なその女性は、注文を取ると、慣れた手付きで豚肉をゆがいてスライスし、魯肉飯を小さなお椀によう。
その間、私は奥の冷蔵庫からビールを取り出す。この店には台湾ビールの缶がなく、代わりにキリンビールが置いてあった。台湾ビールはすでにクラシックも金牌も飲んでいたので、ちょうどいい。
手酌しながら、店の奥にあるテレビに目をやったところで、豚肉プレートとほうれん草炒めが運ばれてくる。絶妙なタイミングだ。
テレビが設置された壁の奥から、カラオケを歌う調子っぱずれな声が聞こえてきた。店の奥にカラオケ部屋があるらしい。台湾語の歌謡曲を熱唱するその歌声は案外若い。
カラオケと重なるようにして聞こえるテレビの天気予報は明日も雨模様と伝えている。
大雨で服も体も湿っているが、ビールの爽快さは旅人の心を満たしてくれる。私は豚の頬肉を嚙みながら小さな幸せを感じていた。