ソウル・江南区にあるヨーロッパのような建物で撮影
――クォン・ヘヒョさんが演じた映画監督ビョンスのせりふに「福岡がよかった」というせりふがあったので、チャン・リュル監督の『福岡』に主演された経験から出たアドリブかと思いました。
いえ、ホン・サンス監督作でアドリブを言ったことはありません。福岡もホン・サンス監督の実体験から出たセリフです。
――撮影場所は江南区鶴洞にある「ホン・シネsalt2店」の建物で行われたそうですが、実際に映画用に美術スタッフが作ったりしたものはあるのですか?
100%そこにあったものを使って撮影しました。4階部分は実際にアーティストの方が使っていたので、少し作品を片付けたりした程度です。
ホン監督が最初にロケハンに行った時に受けた印象を大切に、最大限そこにあるものを活かしています。ホン監督の映画はセット撮影ではなくロケ撮影なので、現場にあるものそのままです。
――映画監督という役柄ですが、参考にした監督像みたいなものはありましたか?
ないですね。なぜなら、朝行ってからその日にどんなストーリーを撮るのか分かるので、準備することが不可能なんです(笑)。
そして、現場に到着してから私に与えられた時間は30 分、長くて1時間、その間にせりふを全部覚えなければならないわけです。
もう自分のせりふに集中して、相手役のせりふを聞くことしか選択の余地はありません(笑)。それに、こうも思います。
私たちが勝手に思っている映画監督のイメージがこうだとか、警察ならこう、判事ならこうと考えるのは違うと思うんです。みんな人間なのでそれぞれ違うと。
ホン・サンス作で韓国のお酒が注目される!?
――最近のホン・サンス監督の映画では焼酎が減ってワインの登場が増えました。クォン・へヒョさんの個人的な嗜好はどうですか?
好きなお酒は特にないです。料理に合うお酒を飲みたいタイプ。面白い話ですが、韓国の飲酒文化を最初に世界に広めたのはホン・サンスではないかと思います(笑)。
海外の映画祭に行くと、映画に出てくる緑色の瓶に入っている透明の液体は何なのか、あれを飲むとみんな欲望が剥き出しになるけど何なのか、そして、次に、マッコリが出てくると、あの白い液体はいったい何なのかと質問されます(笑)。
最近、ワインが多くなったりベジタリアンが登場したりするのは、ホン監督が年も取ってきたので自分の健康を気遣っているんじゃないかと思います(笑)。
監督の映画はいつも自分が知っている範囲の話を描いているので。
――パートナーのキム・ミニさんは制作室長という肩書きでスタッフとして参加されていますが、現場ではどんな仕事をされたのでしょうか?
キム・ミニさんはあらゆることをしています。荷物運び、俳優たちの食事の世話、撮影で使うワインやタバコを買いに行ったり、制作費の計算から撮影時にはスクリプターもしていました。
ホン監督の作品は、数年前から本当に最小限のスタッフで映画を作っています。ホン監督が撮影もするので、現場では録音監督含め3名しかスタッフがいません。
最近の映画撮影現場ではCG撮影などもあり機材も増えることが多いですが、ホン監督はここ10年間、「映画とは何か」を突き詰め、映画になくてよいものを一つずつ排除していき、究極の撮影システムを作ったのだと思います。