20年前、日本の雑誌の投票で人気俳優ランキング2位だったことも
――では、ホン・サンス作品の魅力はどこにあると思いますか?
はぁ…(深いため息)。「正直さ」でしょうか。ホン・サンス映画では人も死なないし、大きな事件は起こりません。
ただ、私的な会話が繰り返されるだけです。だからこそ、観客はその対話に耳を傾けざるを得ません。そうせざるを得なくさせる力がホン・サンス作品にはあります。
次にどうなるか、観客の想像を超える展開が待っているからです。常に私たちの予想は覆されるんです。考えてみればそれって私たちの人生と同じだと思いませんか?
このインタビューの後、外でどんな事が起こるのか分からないじゃないですか。映画やドラマでは予想通りの展開になったりしますが、実生活ではそうはいきません。
だから、一番正直なんじゃないかと思うんです。出演する俳優の立場で言うと、事前に頭の中で準備できないので自由です(笑)。
今日何を撮るのか分からないから準備しようがない。明日はどんな面白いシーンになるんだろう、ホン監督の頭の中からどんな場面が出てくるんだろうと楽しみでしかない。
撮影後に編集で入れ替えていると思う観客も多いですが、そうではありません。すべて、撮った順序通りに映画になっているんです。
出演する側も、昨日までワインを飲んでいたのに、次の日は2階の女性と同棲していてベジタリアンになっていて(笑)。
そういうことがとても面白いですし、自分はすべて受け入れることができます。観客の皆さんも、地下から4階まで、映画に登場するそれぞれの人物の誰か一人には共感できると思います。
――ホン・サンス監督作品は出演料がないという噂もありますが、本当ですか?
ギャラありますよ! 興行成績がよければボーナスもあります(笑)。ただ、ホン監督の作品は、俳優、スタッフ全員が年齢に関わらず大体同じ金額です。
――韓国語の原題は『탐(塔)』ですが、日本では『WALK UP』です。タイトルに込められた意味は?
「탐(塔)」をそのまま訳すと、pagoda(仏塔)のようなお寺にある塔のイメージになってしまい、少し宗教的な意味も持ってしまうので、本作の英語字幕を担当したダーシー・パケットさんが、階段で上がれるような低い建物を話す時に「WALK UP」というと提案してくれました。
歩いて登っていくという意味とそういう建物を象徴する意味で『WALK UP』というタイトルはとてもいいと思います。
――日本では、いまだに「『冬のソナタ』(02)のキム次長」と紹介されますが、ご本人的にはどうですか?
自分の人生での特別な経験だったと思います。もともとTVドラマって早く消費されて忘れられてしまうものじゃないですか。
それが、ずいぶん前に撮ったドラマが日本で急に人気が出たと聞いて(笑)。NHKの『ステラ』という雑誌の人気投票で1位がぺ・ヨンジュン、2位がクォン・ヘヒョというじゃないですか!
なんだ、それはと(笑)。その時トークショーに出て「上手に年を取ってまたお目にかかりたいです」とお話ししたのを覚えています。
あれから20年経ちましたが、その時の観客の皆さんが本作品をご覧になって、いい年の取り方したなぁと思っていただければうれしいです。
そして、6月6日(木)夜、ヒューマントラストシネマ有楽町での上映後に行われた日本公開記念トークイベントに出席。
「20年前に『冬のソナタ』で来たことがある東京にまた来ることができて光栄です」と挨拶し、ホン・サンス監督から届いたメッセージも披露。
ホン・サンス監督の撮影方法など裏話をトークイベントで語った後、なんとアコースティック・ギターが登場!
ギター演奏の腕前は劇中でも少し見せていたが、本イベントでは弾き語りで『上を向いて歩こう』を日本語で歌うというサプライズ・プレゼントが!
最後に「作品は見終わった後は観客の皆さんのもの。どうかお元気でお過ごしください」と挨拶し、終了後もロビーで握手などに応え、観客を見送っていた。
映画『WALK UP』
2024年6月28日(金)より公開