ラブコメディや歴史もの、立身出世ものにホームドラマなど、ジャンルを問わず快進撃を続けている韓国ドラマ。その人気の理由のひとつに社会問題に深く切り込んだテーマ性があげられるだろう。コロナ禍で社会問題が次々と明るみになっているいま、注目したのは医療捜査ドラマ『ドクター探偵』だ。
労働者たちへの不条理を止めるため、医学的観点から企業の不正を暴き出き、“事件”を解決する医師たちの活躍を描いた同作は、'92年から韓国で放送されている真相追跡番組『それが知りたい』のプロデューサーが実話を元に描いた衝撃作だ。UDC（未確認疾患センター＝労働災害発生時に医学的立場から災害の原因となる物質と疾患の調査を実施、捜査権も持った独立機関）で働く医師ト・ジョンウン（パク・ジニ）、ホ・ミンギ（ポン・テギュ）や、証拠分析の要である分析チームのソク・ジニ（藤井美菜）らが、企業が巧妙に隠した秘密を暴き、被害者である労働者たちを救っていく。
権力を持つ者たちに対する韓国国民たちのリアルな感情が描かれる同作に出演した、唯一の日本人俳優がいる。頭脳明晰な理系女子でありながらも、シビアな恋愛観で現場を和ませるUDC分析チームのソク・ジニ役を演じた、藤井美菜さんだ。ドラマの撮影当時を振り返ってもらい、そこで感じたこと、コロナ禍の今思うことなどをインタビュー。前後編でお届けする。
労働環境問題を描いたドラマの労働環境は？
――『ドクター探偵』は労働環境問題を扱った、とてもメッセージ性の強い作品ですね。
「労働環境の問題は、韓国だけでなく日本を含めた全世界共通の問題であり、課題。これを見ていただいた日本の方にも、今一度“働くということ”について考えて向き合ってほしい、そんなメッセージが込められていると思います。監督は『それが知りたい』というリアルドキュメンタリー番組を撮られていた方なので、その技術を駆使した映像は、このドラマならではの色になっていると思います」
――確かに、ヒロインが現場で被害経路を推理するシーンや、実際の事故や事件の当事者への取材映像がほぼ毎回挿入（※セルDVDにのみ収録）されていて、この監督ならではだと思いました。
「韓国の知人も、ドラマで取り上げられた事件については、何となくでしか知らなかった、という人が多かったです。皆さん、『ドラマをきっかけに、今一度考えるいい機会になった』と言っていましたね。話だけで事故のエピソードを聞くよりも、実際の事実を知って立体的に見ることができるので、より芯のある演出で社会的にも大きな影響力を与えたんじゃないかなと思います。私自身も、お芝居の中ではありますが、事実を追求したいと強く感じていました」
――しかも、テーマは重いのに楽しく見られました。
「UDCチームのやりとりはテンポが軽いんです。事実をただ重く突き付けるのではなく、ライトなセリフやほのかな恋愛要素、コミカルな部分もあるので、幅広い方たちに楽しんでいただけると思います」
――驚いたのは藤井さん演じるソク・ジニのセリフの多さです。
「今回は在日韓国人三世という、外国人的要素が少しだけ入った役でした。これまでは日本人役が多く、また、ここまで長い間、現場に居続けるのは初めてでした。私はしゃべるより、読むほうに時間がかかるタイプなのですが、当然、台本は専門用語だらけで……。時間をかけて台本を読み込んで、また届いたら読み込んで……と毎回大変だった記憶があります。日本語のセリフも念入りに読み込むほうなので、私の2019年はずっと台本を読んでいた……そんな感じです（笑）。一般人ではなくUDCという専門家チームの一員として、事件を解決するために動いている役なので、研究なり、事件なりについて、完全に理解したうえで演じなければいけませんから」
――1話分の台本を読むのにどれくらいかけるのですか？
「読むだけで3日、そこからセリフを憶えて、演技プランを考えて……って感じなので、本番当日まで4～5日はほしいです。韓国ドラマは10年ほど前からやらせてもらっているのですが、当時は本番の1～2日前に台本が上がることが多く、毎回泣きそうになっていました。『じゃがいも星』（’14）というシットコムドラマに出た時は、前日の夜が普通でした（笑）。ずっと出っぱなしというわけではなかったのに半泣きでした……。それに比べてセリフはぐっと増えているのですが、韓国ドラマの職場環境も改善され、余裕を持って撮るようになっていたのが、幸いでした。このドラマの登場人物のような人たちの努力もあって、韓国ドラマの現場でも労働環境は良くなっているんだなと感じました」
