保存治療が困難な膝前部の慢性的な痛みの原因となる「難治性膝蓋腱症」への新しい治療法に関する研究結果を発表
東京先進整形外科(東京都調布市、院長:面谷透)は、先進的な治療手段を積極的に活用しながら、個々の患者さんの状態に応じた最善の治療を模索・提供しています。特にスポーツ整形外科の診療に長け、オリンピック選手やプロスポーツ選手を含む多数のアスリートが訪れます。
この度同院は、保存治療が困難な膝前部の慢性的な痛みの原因となる「難治性膝蓋腱症」への新しい治療法に関する研究結果を発表しました。本研究はAmerican Medical Society for Sports Medicine(アメリカスポーツ医学会)の公式雑誌である「Clinical Journal of Sport Medicine」に2024年9月10日に掲載されました。
アスリートを悩ます膝蓋腱症とは
膝蓋腱症の超音波画像所見。膝蓋腱が膝蓋骨に付着する部分で黒ずんだ色調の変化がみられ(星印)、血流の増加を示唆する赤いシグナルが増強している。
膝蓋腱症はアスリートにみられる膝関節の痛みの原因の1つであり、スポーツにより膝蓋腱に対する負担が蓄積した結果として発症すると考えられています。珍しい病態ではなく、レクリエーションレベルのアスリートでは8.5%が、エリートレベルのアスリートでは13-20%が罹患することもあると報告されています。まずは保存療法が行われることが一般的であり、痛み止めの使用・リハビリテーション・装具・注射などが行われます。保存療法の成績は概ね良好であり、90%の症例がスポーツに復帰できると報告されていますが、中には痛みが長引き、痛みのためにスポーツのパフォーマンスが低下したままになってしまうことがあります。
膝蓋腱症はジャンプ動作を伴うスポーツ競技に発生しやすいため、別名ジャンパーズ・ニーとも呼ばれます。そのような競技を行うアスリートの中には「膝が痛いのはしょうがない」と、ジャンプやダッシュでの痛みを抱えた状態で何年も競技を継続している方もいます。
この症状はさまざまな要因で引き起こされることがありますが、基本的にはスポーツによる膝蓋腱への負担の蓄積や腱の小さな損傷が主な原因と考えられています。腱への微小なダメージは自然に修復されますが、腱が持つ自然修復能力を上回った場合、腱内部の状態は悪化していきます。特に、変性組織と呼ばれる組織が発生してしまうと、長引く痛みの原因になりやすいと考えられています。変性組織は痛みの原因となるサイトカインという物質を分泌したり、痛みを感じる異常な神経を豊富に含むことがあるため、長引く痛みの原因となることがあります。多くが保存療法で改善が得られますが、中には保存療法の効果が乏しく難治化してしまうケースがあります。
Percutaneous ultrasonic tenotomy(超音波腱切離・剥離術)とは
この難治性膝蓋腱症に対して、東京先進整形外科は「Percutaneous ultrasonic tenotomy(以下、超音波腱切離・剥離術)」を実施しています。この治療法は、使用する専用の機器のメーカー名からTENEX(テネックス)と呼ばれることもあります。
超音波腱切離・剥離術は、30分程度で終わる日帰り治療です。メスや内視鏡を使用せず、1.6mmほどの専用のデバイスを膝蓋腱の中に挿入して、腱内部の痛みの原因となっている変性組織を吸引します。傷は糸で縫う必要はなく、テープで保護して終わりです。治療後は、1週間の膝の固定・松葉杖による歩行により膝蓋腱への負担を減らします。リハビリテーションを行いながら徐々に運動強度を上げ、処置後3か月以降でスポーツへの完全復帰が許可されます。
A:超音波腱切離・剥離術で使用する器械(TENEX)の先端の直径は約1.6mmと細く、低侵襲な治療を行うことを念頭に開発されています。B:局所麻酔下でTENEXの先端を膝蓋腱の内部に挿入し処置を行います。C:TENEXの先端(矢印)が膝蓋腱の病変部に正確に挿入されていることを超音波画像で確認しながら処置を行います。D:TENEXの先端が膝蓋腱症の病変部位を破砕・乳化し、外筒から吸引します。
今回発表された論文の概要
本研究は、保存療法が無効であったアスリート5名(8膝、平均年齢22歳)を対象に実施されました。プロ野球選手、実業団野球選手、大学バスケットボール全国レベル選手、高校バスケットボール全国レベル選手など、各競技のハイレベルなアスリートが含まれています。膝蓋腱の痛みを発症してから本治療を行うまでの平均罹病期間は3年7か月(最短4か月、最長7年)で、全員が慢性的な膝前部の痛みを抱えていました。
全患者に対して超音波腱切離・剥離術が行われました。膝蓋腱症の症状の強さを判定するVISAスコアは術前の43.1から77.1に改善し、痛みの評価尺度であるNRSスコアも6.4から2.8に有意に減少しました。4例(6膝)は平均3か月19日で競技に完全復帰しました。1例(2膝)は残念ながら痛みの改善が得られませんでした。
これまでに報告されている膝蓋腱症に対する手術成績に関する研究では、手術後に平均5か月でスポーツに復帰ができ、復帰率は80%であったとされています。本研究で実施された超音波腱切離・剥離術はこれまでにない非常に低侵襲な治療であり、スポーツへの早期復帰にプラスに働いた可能性が考えられました。
本研究により、ハイレベルなアスリートの難治性膝蓋腱症に対する超音波腱切離・剥離術が概ね良好な治療成績と競技復帰をもたらすことが明らかになりました。今後、より症例数を増やして更なる検証を行うことが期待されます。
https://journals.lww.com/cjsportsmed/abstract/9900/ultrasound_guided_percutaneous_ultrasonic_tenotomy.233.aspx
Omodani T, Saito M, Ikuta F. Ultrasound-Guided Percutaneous Ultrasonic Tenotomy for Refractory Patellar Tendinopathy in High-Level Athletes: A Case Series. Clin J Sport Med. 2024 Sep 10. doi: 10.1097/JSM.0000000000001275
東京先進整形外科について
東京先進整形外科(東京都調布市、院長:面谷透)は、先進的な治療手段を積極的に活用しながら、個々の患者さんの状態に応じた最善の治療を模索・提供しています。特にスポーツ整形外科の診療に長け、オリンピック選手やプロスポーツ選手を含む多数のアスリートが訪れます。
アスリートの診療に加えて、国内・海外での多数の学術・教育活動を行っており、国内外から多数の診療見学や視察を受け入れています。
https://www.tokyo-senshin.com/
院長紹介
東京先進整形外科 院長 面谷透
2012年に横浜市立大学医学部卒業。藤沢湘南台病院・船橋整形外科病院などでスポーツ整形外科を学び、その後渡米。University of Pittsburghにて、超音波腱切離・剥離術をはじめとした最新の治療を学ぶ。2022年9月に東京先進整形外科を開院し診療を行っている。
超音波を活用した画像診断・注射を中心として、様々な治療法を駆使して診療を行う。スポーツ選手の診療に長け、特に自身に競技経験のある体操競技に関して造詣が深い。侵襲の少ない手術を得意とし、関節鏡や超音波を積極的に利用する。
超音波診療や体操競技の医学をはじめとして、国内外での学会発表・論文執筆・講演を多数行っている。超音波診療の発展と普及のために活動する「先進整形外科エコー研究会」では代表世話人を務める。
https://www.tokyo-senshin.com/about/staff
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