羊水検査中、医師から受けた叱責

紹介状をもらい5日後に羊水検査を受けに行った私は、検査中ずっと泣いていました。

すると医師から「何をそんなに泣いているんですか?どんな子どもでも産もうと考えているならば、最初からこの検査を受けないでしょ。検査を止めますか?」と叱られました。

この医師の言葉は当然でした。障害のあるなしに関わらず、どんな子どもでも産んで育てるつもりだったら、この検査をそもそも受けることはないのです。泣いていること自体、矛盾している態度でした。

確定診断の結果が出るまで一ヶ月かかりました。21週と6日までしか中絶は認められていません。医師から「検査結果が出て1週間以内に産むか産まないか決めてください」と言われました。胎動を感じながら、30日間悩みました。何を食べても美味しくなく、何を見ても嬉しくなく、頭はこのことで支配されていました。

さて、結果は「13トリソミー、18トリソミー、21トリソミー(ダウン症候群)ではない」でした。その結果を見て、ホッとしました。

でも、障害児だった

息子が生まれて、2年経った頃です。どうも様子がおかしいのです。人に関心を示さず、声もほとんど出さず、保育園ではまったく集団行動がとれません。

保育園でクラスメートが歌っている後ろで、息子は1人で本を読んでいます。

保育士が紙芝居を読んでいるのに、寝ています。

明らかに他の子とは違う異質な行動でした。

不安になり、国立成育医療センターの心の診療科を受診しました。医師から「自閉症です」と診断されました。知的障害も伴っていました。

障害の受容とは

「障害児を育てる」なんて自分の人生の設計図にはありませんでした。でも、実際、育ててみると大変なことはたくさんありますが、不幸だと感じたことは一度もありません。今、息子がいない人生を、想像することなんてできません。

たとえ健康な子どもが生まれたとしても、病気になったり、事故にあったり、精神疾患を患ったり…人生には予期しないことが起こります。でも、どんな子どもでも受け入れ、育てるのが「親になるということ」だと思います。

“障害の受容”って、長い年月かけて子育てしていく間に、それまで親が築いてきた自身の価値観をことごとく潰していく作業だと感じています。

自分が健常者として生きてきた道、例えば「6歳になったら元気に小学校に入学して、学校が終わったら自立して…」というパターンが我が子に当てはまらないと知ったとき、親は自分が生きてきた道と全く違う価値観をゼロから作り上げます。

筆者の場合も自閉症の息子の「友達が一人もいなくても毎日楽しく過ごしている」「同じものしか食べなくても満足」などを通して、今まで築いてきた「これこれこういうことが幸せ」と決めつけていた価値観がガラガラと崩れました。そして、考え方を軌道修正して世界が広がりました。

正しい知識を持って、選択できるように

「第1子に染色体異常があったので第2子については検査を受ける」「親亡きあと、他の兄弟に大きな負担がかかるので産めない」と考え、出生前診断を受ける人もいます。ご家庭によって、さまざまな事情がありますので他人があれこれ言ってはいけないと思います。

ただ、人は“分からないこと・見えないこと”には不安を抱きます。「うちにはお金がないから、障害児を育てられない」と漠然と考えて中絶する人もいます。

でも、障害がある子どもを育てる家庭には、特別児童扶養手当や障害児福祉手当や税などの減免があったり、福祉サービスを受けることもできます。都立の特別支援学校高等部の授業料は月額100円しかかかりません。

実際にダウン症の子どもを育てている保護者の話を聞く機会を持つのもよいと思います。正しい情報を持って検査を受けてほしいと思います。