「本音」で話せること

美咲さんのそんな葛藤をよそに、Aさんは相変わらず気さくな感じで映画やカラオケに誘ってくれて、親密度は増していきます。

「楽しいねって言い合う瞬間があって、ああこの人のことが好きだなと思うし、彼からも好意を向けられているのはわかるのですが、今後についてどう思っているのか、軽い気持ちで付き合うとかなら私は無理かなと、思い詰めていました」

元気のない美咲さんを気にしてくれるAさんに、「でも、こんな自分を知られたらその時点で離れていかれるかも」と、それが怖くて言い出せなかった美咲さん。

このときも、背中を押してくれたのは同僚でした。

「後で本音を知られて無理って言われるより、今のうちに伝えておくほうが、それこそ時間の無駄を防ぐんじゃないの?」

悩むことで視野が狭くなっている美咲さんに、「相手のことばかり気にしすぎ」と、同僚は続けます。

それを聞いて、「駄目になるなら早いほうがいい」と心を決めた美咲さんは、ある週末のデートで、自分の不安を正直に口にします。

「すぐに別れるような、軽いお付き合いはしないと彼に言いました。

結婚は私もこだわってはいないけど、だからって男性と深い仲になりたくないわけではないので」

それが自分の本音だと気が付いた美咲さんは、これをAさんが笑うならもう終わろうと思っていたそうです。

Aさんの返事は、

「この年になって、軽い遊びで付き合うとか、自分はやらない。

美咲さんがどんな人かは自分なりに見てきたつもりだし、大切にしたい」

と、「私の目を見て話してくれた」姿を、美咲さんは今も覚えています。

このときに知ったのは、AさんはAさんなりに

「結婚を考えていないと言った自分とは付き合わないかもと、ずっと不安だったそうです」

と悩んでいたことで、でもそれがAさんの本音であることも、美咲さんは理解していました。

「『焦らずに進もうよ』と、Aさんが言ってくれました。

私の過去を聞いてしまったから、男性不信になっているのかもと思っていたそうです」

お互いに別々の葛藤を抱えていたとわかったことが、本音を言ってもきちんと受け止めると知ったことが、美咲さんの心を「あたたかく包んでくれた」といいます。

「ミドサーって、若い頃と比べて余計に慎重になるというか、傷つきたくない気持ちが大きくなるんだなって、このとき思いました。

でもそれはAさんも同じで、『予防線を張ってしまった』と言っていたけど、勢いだけでは進めないんですよね」

足並みを揃えて歩いていける幸せ

ふたりは現在も交際中で、週末は楽しいデートを繰り返しています。

告白したのは美咲さんからで、「こんな私でよければ」という言葉に、Aさんは「喜んで」と笑顔を返してくれたそうです。

お互いに心が自立しているからこそ、「この自分」が相手にどう受け止められるかの不安が湧いてきます。

相手に関係のすべてを任せるような姿がもし美咲さんにあれば、こんな流れにはならないはずです。

自分の気持ちを正直に伝えるのは勇気が必要で、その結果終わりを迎えることを想像すれば怖くなるのは、いくつになっても同じ。

その一歩を踏み出せたことでふたりの信頼はより強くなり、一緒に愛情を育てていく自信が生まれます。

真摯に人を好きになるからこその葛藤は、それを理解しあうことで「足並みを揃えて歩いていける」幸せにつながるのですね。

ミドサーで恋愛に臆病になるのは、受けるダメージの大きさに心が怯んでしまうことにもあります。

それでも、好きな人との関係を進めたいのなら、素直さを思い出すことが肝心。

本音を打ち明ける勇気は、何よりも自分がまっすぐに思いを育てる力になることを、忘れたくないですね。