10年に及ぶ食虫植物と彼女の関係、そして多彩な罠。

木谷さん「今回のトークショーは『私、食虫植物の奴隷です。』というタイトルなわけですが、皆さんが興味をお持ちなのは“奴隷”でしょうか? それとも“食虫植物”でしょうか?(笑)」

冗談交じりにトークショーを始めた木谷さん。「おそらく、“食虫植物”に興味がある方がほとんどかと思うので、今日は食虫植物についてお話ししますね」と笑顔で続ける。

彼女が食虫植物に初めて出会ったのは2005年。食虫植物という存在は知っていたものの、初めて見たハエトリソウの姿に驚き、惹きつけられたという。 「こんなに素敵な形の植物があるなんて! そして虫を食べるなんて、なんて不思議なんだろう」。まるでハエトリソウが話しかけてきたように感じたそうだ。

食虫植物とは虫を食べる植物の総称。虫をおびき寄せ、捕まえ、消化吸収して栄養にする。660種以上12科19属もの食虫植物がある。そして虫を捕まえる方法も多種多様だ。

・挟み込み式:ハエトリソウやムジナモなど
二枚貝式になった葉(補虫葉)で虫を挟み込む。

ハエトリソウの場合、トゲトゲがついた補虫葉の内側にある感覚毛に2回以上短い間隔で触れることによって、葉がわずか0.1秒で閉じる。葉が閉じてしまうと、もう逃げ出すのは不可能に近い。恐ろしい『ハエトリソウの柩』だ。 どんどん消化吸収された虫はミイラのようになり固い外骨格だけが残ることもあるが、雨や風などにより外に排出される。パクパク虫を食べそうなイメージがあるが、意外と虫を捕まえる能力は低いそう。

・落とし穴式:ウツボカズラ、サラセニア、セファロタス、ヘリアンフォラ、ダーニングトニアなど
ツボのような変形した葉の中に虫を誘い込む。この捕虫器と呼ばれる袋には消化液が入っており虫が落ちるとどんどん底に沈む。そしてやがて消化されるという仕組み。

木谷さん「私が食虫植物を魅力的と思うように、虫も魅力的に思うんでしょうね。そして『たまらん~!』と食虫植物に向かっていってしまう。そういう意味では、私は虫の気持ちが分かる気がします」

艶めかしい曲線を描くその袋、意味深げに開けられた入り口。そこからは虫が好む匂いが出ているかもしれない。確かに思わず入って行ってしまうかも……。

・粘りつけ式:モウセンゴケ、ムシトリスミレ、ドロソフィルム、ビブリス、ロリドゥラ、イビセラなど
葉の縁や表面にネバネバした粘液がついた腺毛が生えている。虫の羽や足がくっつくと、消化液が出てきてそのままじわりじわりと溶かされてしまう。最後は吸収されて黒い点のようになるそうだ。恐ろしや。

ドロセラ・システィフロラ(Drosera cistiflora) 南アフリカ産の塊根モウセンゴケ【画像提供:木谷美咲】

捕虫葉を拡大して見ると、腺毛の先に水滴のような粘液が付いている。これが朝露のようにキラキラしてとてもきれい。思わず触りたくなってしまうが、虫も同じような気持ちになるのだろうか。マニアはこのように部分部分を拡大し、“ミクロ”目線で見る人も多いらしい。

水滴のように見える部分が粘液 。食虫植物にはあまり臭いものはないが『ドロソフィルム』 はなかなか強烈だそう。(ケモノ臭さ+死骸が腐った臭さ+青臭さ)÷3=近所迷惑になるぐらいの臭さ、だとか。

可愛いらしい花を咲かせるムシトリスミレ。これも食虫植物とは驚きだが、下にある葉の部分で虫を捕まえるそう。綺麗な花で虫をおびき寄せているのだろうか。

木谷さん「一つの植物の中に“天国と地獄”があります。なんというか因果を感じさせますね」

コスモスのような花を咲かせる『ビブリス』。「とてもきれいな植物ですが、線状の葉で虫を捕まえます。 こんなに繊細なのに食虫植物なんですね~!素晴らしい!」と興奮気味な木谷さん。この可憐さと残忍さのギャップに萌える。分かる気がする。

ツノゴマ科の『イビセラ・ルテア』。英語では“デビル・プランツ”、日本語では“悪魔の爪”、“旅人泣かせ”とも呼ばれる。木谷さんが実際に実を持ってきてくれたが、先端から2本の鋭く大きな鉤状の角が生えている上に、果実全体にも細かいトゲが沢山生えている。確かにこれを踏んだら泣く。なんて凶悪な形なんだろう。

木谷さん「ある意味食虫植物“らしい”形です。神経に触るというか、感覚を刺激する形ですよね」
また、食虫植物の学名は『ドロセラ・システィフロラ 』、『ドロセラ・スコルピオイデス 』などまるで呪文のよう。和名がないものも多いらしいが、学名での呼び名もミステリアスで素敵に思える。