今年3月に東京・シネマート新宿にて行われ、好評を博した上映イベントが再び、「K ミュージカルシネマ『サリエル』記録上映会」(韓流ぴあ主催)として大阪と東京にて全5回上映されます。韓国ミュージカルファンの心をつかんだ秀作『サリエル』。上映会までに同作の魅力を数回に渡ってリレーエッセイでご紹介します。
ミュージカルファンの心をつかんだ『サリエル』が再び日本へ
創作ミュージカルが盛んな韓国で昨年7月に初演された『サリエル』は、ストーリーの面白さや魅力的なキャラクターと楽曲、俳優たちの好演によって高い評価を受けた。日本でもこの作品に注目していた人は少なからずおり、3月に“ミュージカルシネマ”として上映会が行われた際には、「日本で見られるとは思っていなかったのでうれしい!」「字幕付きで見られるのがありがたい」との声が多数聞かれた。
平凡な人間を苛む嫉妬、芸術家の苦しみを描く
天才音楽家モーツァルトと同時代に生きた宮廷音楽家サリエル。『風月主~美しきファランの禁断の愛~』や音楽劇『ヨーロッパ・ブログ』などのヒット作で知られるチョン・ミナが脚本を担当し、モーツァルトの才能に嫉妬し毒殺したとの噂も根強い彼を主人公に、平凡な人間を苛む嫉妬という感情、芸術家の苦悩などをドラマティックに描き出している。
映画『アマデウス』によって多くの人になじみ深い題材だが、本作は1825年のサリエル死去からわずか7年後に発表された、ロシアの作家プーシキンの作品に想を得たもの。サリエルがモーツァルトの音楽の素晴らしさに嫉妬するあまり毒殺するに至った、というアウトラインの部分が取り入れられている。
モーツァルトを毒殺したという噂に苦しみ、自殺を図って助けられる冒頭から、主人公はサリエルであり、彼の内面の葛藤に焦点が当てられた物語だということが示される。ミュージカルならではの設定として際立っているのが、サリエルの嫉妬心の表れとして登場する“ジェラス”というキャラクター。
1幕目の中盤で登場するこの謎めいた男は、満座の席でモーツァルトの才能を意識させられたサリエルの前に突如として現れて「♪昔から先生をよく知っています。私の助けがいつか必要になるはず」と歌う。この時は彼を相手にしないサリエルだが、前触れなく姿を見せるジェラスにいつしか翻弄されていく。舞台全面に配置された鏡が彼の不安な心を映し出す。