ポジティブな期待・記憶・条件が良い効果を生む
プラシーボについては、こんな大胆な文言も残っている。
最近までのほとんどの薬はプラシーボだったのだから、医療の歴史の大部分はプラシーボ効果の歴史といってもいい。アーサー・K・シャピロー(1968)
『プラシーボの治癒力 心が作る体内万能薬』
実際プラシーボは、20世紀に入る頃までは、医療現場ではゆるやかに、意図的に使われることも多かったようだ。
【事例1】
リウマチ熱の患者に、ある樹木の皮から作った抽出液(特に効果はない)を「プラシーボ治療薬」と名づけて与えた。すると、当時リウマチ熱治療に一般的に使われていた薬を与えた患者と、だいたい同じ率で回復した
【事例2】
ある女性に、使用法を細かく、厳しく指導したうえで、パンくずの錠剤を処方。
数カ月後、その患者は「あんなによく効く薬は初めてです。・・・大勢のお友達に分けてあげましたけど、みんなとてもよく効いたと言っていますよ」とコメント
“プラシーボ効果”という言葉は、プラシーボそのものがもたらす効果のほか、プラシーボを使わずとも、信じることや期待などから得られる効果や、“パブロフの犬(※)”のように、ある刺激を何度も与えることによる、条件反射的な好転反応を指す場合もある。
※ロシアの科学者イワン・パブロフによる実験。犬にエサを与えるたびにベルを鳴らしたところ、犬はベルの音を聞くだけで唾液を流すようになった
【事例3】
ぜんそくをもつ子どもに、1日2回、吸入器でぜんそく薬を投与し、同時にバニラの香りをかがせた。15日後、これらの子どもたちは、薬なしでもバニラの香りをかがせるだけで、肺の機能がかなり改善した(本物の薬を与えられた子どもたちの1/3程度の改善を示した)。さらに、吸入器(中に水を入れる)を使用するだけでも同様に改善した
“本物らしい”ほどよく効き、ときには副作用も
どんなプラシーボがよく効くのか。データによれば、錠剤よりもカプセル、経口薬よりは注射、痛くない注射よりは痛い注射、そして外科手術…、といったように、仕掛けが大掛かりになればなるほど、より本物らしくなるほど、良い効果を生む傾向にあるという。
【事例4】
当時行われていた狭心症の手術方法に疑問をもった医師が、実際に患者の胸にメスを入れたものの、なんの処置も行わない“ニセの手術”を試みた。その後、ニセ手術を受けた患者たちは、本当の手術を受けた患者たちと同じ割合(2/3以上)でよい成果を残した
ときには、薬の効き目を逆転させてしまうことだってある。