原発事故と漫画
企業不祥事など社会の闇に介入し、莫大なシノギ(金儲け)に変えてしまう異能ヤクザ・白川竜也の活躍を描くピカレスクロマン漫画『白竜』と続編『白竜LEGEND』。その「原子力マフィア編」では、原発をめぐる裏社会の攻防が綴られた。
ここに登場する架空の電力会社「東都電力」は、安全性を軽視した原子力発電所を建設・運営しながら、反発する者はカネと暴力で沈黙させるというヤクザ顔負けの悪らつな企業。警察官まで抱き込み、平然と殺人も犯す強大な敵に主人公たちが挑むストーリーだった。
タイミングが悪かったのは連載時期で、「原子力マフィア編」エピソードの開始が2011年2月。あの東日本大震災と福島第一原発の事故が起こる前月だった。本作は当時の情勢に配慮する形で、3月18日発売号をもって休止。連載再開するまで2年あまりかかった。作者としては不本意かもしれないが、「原発事故を予言していた漫画がある!」とネット上で話題になり、結果的に『白竜』の名前が広く知られる結果となった。
また、原発事故で放射能汚染された近未来の東京を舞台に、少女たちが決死の人命救助を繰り広げる漫画『COPPELION』も、東日本大震災にリアルタイムで影響を受けた作品だ。2010年にアニメ化が発表されていたが、震災の発生から長らく沈黙が続き、放送されたのは2013年になってから。設定もアニメ版では一部改められ、原発事故を極力連想しにくいよう配慮される形となった。
記事の主旨と少し離れるが、あの有名漫画『ゴルゴ13』にも原発事故とのシンクロがあったことをご存じだろうか。「2万5千年の荒野」というエピソードだ。アメリカの原発で、ずさんな安全管理により施設の一部が破損。利益を優先する上層部がそのまま強引に稼働させたため、原子炉が制御不能となる危機に陥った。
ゴルゴの神業的な狙撃によってロサンゼルス近郊が荒野になる惨事は回避されたが、『白竜』と同じく原発の安全管理について深く考えさせられるエピソードだった。この「2万5千年の荒野」が発表されたのは1984年7月。そして福島原発事故と並ぶ「レベル7」のチェルノブイリ原発事故が起きたのは、それから1年9ヶ月後のことである。