『溺れるナイフ』 ©ジョージ朝倉/講談社 ©2016「溺れるナイフ」製作委員会

『溺れるナイフ』は、いままでの恋愛映画が描いてこなかった恋の形がすごく詰まっている。

――上白石さんは、今回の映画ではどのシーンが好きですか?

「私が出ているシーンだったら、やっぱりクライマックスですね。あそこには魂を込めました。

ネタバレになるので詳しくは書けないと思いますけど、それだけは伝えたいです。

あそこは目だけのお芝居だったし、目に溢れてしまいそうな感情をいっぱい込めました! それくらい、自分の中でも大きなシーンだったんです」

――ご自身が出ていないシーンでは?

「夏芽ちゃんと大友のシーンが好きですね。(大友の)眉毛(を夏芽がいじるシーン)とか(笑)、バッティングセンターとか……バッティングセンターのところは特に好きですね。

癒されるというか、救われるというか。本当に素敵なふたりだなって思うし、大友の人柄が滲み出てるし、バッティングセンター、大好き!」

――その後のカラオケは?

「あれは新しいですよね。1曲まるまる歌うなんて(笑)。

あと、お祭りの前にコウちゃんと大友がちょっとだけ会話をするところがあるじゃないですか? あそこも好きです。コウちゃんが素を出して、心から笑ってるシーンだなと思って。

恋敵ではあるけど、それに男同士の友情が勝っているみたいな、そういうやりとりがすごくいいですね」

――先ほど言われたこと以外で、印象に残っている撮影中の思い出はありますか?

「撮影の合間に菅田さんがギターを弾いて、私が歌うっていうのをやっていました(笑)。

なんかその場で『あれ、歌える?』って聞かれて、『あっ、歌えます』って感じで、星野源さんや秦基博さんとかいろいろ歌いました。

みんながいるロケバスの中でも歌ったことがありました。けっこう過酷な撮影だったので、ギターの音に癒されていました(笑)」

――上白石さんは、この作品を同世代の人たちにどういうふうに薦めますか?

「私は恋愛映画ってすごくキラキラした、憧れのようなものを描いたものが多いと思っているんです。

今回の映画でも夏芽とコウのふたりが本当に輝いているし、こういう恋愛って素敵だなって思うシーンがたくさんあります。

でも、この作品はそれだけじゃなくて、いままでの恋愛映画が描いてこなかった恋の形がすごく詰まっている。

自分にも痛いぐらい当てはまるものとして観ることができると思うので、この4人と一緒に恋をして欲しいですね」

上白石さんが、最近ワクワクしたこと。

――今後、女優としてどうなっていきたいですか?

「今回共演させていただいたみなさんが、自由自在にお芝居をされる方々で、セリフを話すにしても、動くにしても、本当に柔軟なんです。そういうところが自分にはないなと気づかされたし、私も柔軟に自由自在にその役として動きたいなって、またひとつ新しい目標ができました。

今回も新境地でしたけど、これから先も心を本当にグニャグニャに柔らかくして、自由自在に言葉や空間を操れる人になりたいなと思います」

――自分が持っているもので、もっと活かしてみたいなと思うものは?

「わりと動けるぞ!っていうところですかね(笑)。どんくさい役が多いんですけど(笑)、運動はけっこう好きで、陸上の大会にも出たことがあるので、わりと動けるんだよっていうのは知って欲しいです(笑)」

――最後に。上白石さんが最近ワクワクしたことを教えてください。

「釜山国際映画祭で韓国に行って、初めて本場のキムチを食べてワクワクしました(笑)。

私、韓国料理がめちゃくちゃ好きで、これが本場の辛さか~! と。ジワジワくるイジワルな辛さで、ワクワクしましたね」

――「釜山国際映画祭に行って」って言われたので、「レッドカーペットを歩いてワクワクした」とか、そっちに行くのかな? と思ったら……。

「キムチでした!(笑)」

劇中のカナちゃんとは違い、明るく無邪気に映画のこと、自分のことを語ってくれた上白石さん。

けれど、その言葉の端々には強い意志と前向きな心がくっきり。しかも物事を冷静に、適格に見る観察力を持ち、それを吸収して自分のものにできる彼女は、その小さな身体の中にまだまだ大きな可能性を秘めているに違いない。

『溺れるナイフ』の「上白石萌音」を見て驚愕する人も多いだろうが、早くも次が楽しみだ。今度はどんな顔を見せてくれるのか? しばらくは目が離せない。

映画ライター。独自の輝きを放つ新進の女優と新しい才能を発見することに至福の喜びを感じている。キネマ旬報、日本映画magazine、T.東京ウォーカーなどで執筆。休みの日は温泉(特に秘湯)や銭湯、安くて美味しいレストラン、酒場を求めて旅に出ることが多い。店主やシェフと話すのも最近は楽しみ。