── コロナの時間で、たくさんの人が、自分のことを振り返る時間を手に入れたと思うんですけど、落語家として今後どうしていくのかというようなことを、考えたりしましたか。
一之輔 ふふふふふ。いやあ、全然(笑)。毎日ダラダラしてますから。
最初のひと月くらいは、ちょっと不謹慎ですけど、ひょっとしたら普通にいい休みなのかもしれないという感覚があった。
今までちょっと働きすぎだったから、家にこんなにいることもないし、子どもとしゃべることも、朝昼晩と全部家で食べることも、噺家になってから、いや、たぶん、所帯をもったときからずっと、なかったと思うので、噺家としてというより人間として、いい時間が持てているかなという気がしましたけどね。
でも、「これから、落語家として」みたいなことは、今まで考えたことがない。
基本、行き当たりばったり。
配信にしたって、正直に言うと、最初は、ぼく自身、あまり乗り気じゃなかったんです。やむを得ず、しょうがない、やることもないからやるかっていう感じだった。
「配信って、できませんかねえ」ってスタッフの人に尋ねたら、「ああ、じゃ、やりましょうよ」っていう感じで、
「そんな簡単にできるの」って訊いたら、「うん、技術があればできますから」というように、トントンと進んでいくような感じだったから、運がいいなと思います。
でも、先のことは考えてないんです。
ただ、落語界としては、全員が全員、生き残らないとしょうがないですもんね、噺家を辞める人、なるべく出さないようにしないといけませんから。
でもまあ、ときには今回のような経験も、しておいた方がいいとも思いましたね。客観的に考えれば、演芸界自体がね、ぼくらが、今までちょっと、調子がよすぎたから。
── また、普通にライブの高座ができるような時代が、遠からず戻ってくるとは思いますが、そうなると、またとても忙しくなって、せっかく手に入れた団欒がなくなってしまいませんか?
一之輔 どうかなあ。来年あたりからはそうなるかもしれないですね。中止になった公演の延期が、どうかすると来年に、っていうのがあったりします。
今年チケット買って行けなくなっちゃった人が、待っていてくれると思うと、無理しても行きたいなと思いますよね。地方とかね。
── 配信でのべ21万人が観ていたら、それはもう全国区の数字ですから、これは日本全国に出向かないと。
一之輔 配信がきっかけで、生の落語が聴きたいなと思った人が来てくれるかもしれない。地方でね。
そこは、やっぱりライブは大事にしたいなとは思いますね。行けるところはね。
── その前に、まずは「よみらくご」で、当日は客席に生のお客さんこそいませんけど、オンラインの向こう側でたくさん観ていますので、
ガツンと配信でおもしろい落語をお願いします。期待しています。
一之輔 はい。がんばります(笑)。
春風亭一之輔
1978 年、千葉県野田市生まれ。大学卒業後の2001年、春風亭一朝に入門。2004年11月、二ツ目昇進、「一之輔」と改名。2012年3月、21人抜きで真打昇進。200を超える持ちネタがあり、滑稽噺から人情噺まで広く古典落語を演じるとともに、現代的なセンスの効いた独創的な高座で知られる。当代きっての人気を誇り、年間900席もの高座をこなすなど、寄席、ホール落語問わず精力的に活動。
よみらくご第18回公演「わるいヤツら」PIA LIVE STREAMにて配信
配信日:6月4日(木) 18:30
出演:瀧川鯉八、春風亭一之輔、古今亭文菊、林家正楽、春風亭一朝
視聴券料:2000円