「#オンラインライブハウス_仮」の仕組みに至る経緯
── そうした出発点から、「#オンラインライブハウス_仮」の仕組みに至る経緯はどのようなものだったんでしょうか?
柳井 ふたつの軸でお話ししたいのですが、まずひとつは、マネタイズの方法について、ですね。
YouTubeのスーパーチャットをはじめとした投げ銭モデルで、YouTuberやイチナナライバーが成功している事例を見て、デジタル投げ銭に移行しなければいけないんじゃないかという風潮があって、僕はそれにかなり疑問を感じていたんです。というのは、例えばYouTubeで誰もがパフォーマンスを見られて、そこで投げ銭できるのって、リアルの世界に置き換えたら、路上で弾き語りしてギターケースを広げてそこにお金を入れてもらうっていうことと同じかもしれないんですよね。
そういう感覚でデジタル投げ銭というものを捉えられているのかな?っていうのが疑問だったんです。
だって、日本のミュージシャンって、どっちかと言ったらその方法は苦手なんですよね、みんな(笑)。
どれだけ良いパフォーマンスを見せるか、という部分は得意なんですけど、やった後に、お金ちょうだいって自分で言うのは苦手な人たちなんですよ。
だから限定された空間の中でやって、その中に入りたかったら先にお金ちょうだいね、あとは最高のパフォーマンスをするからっていうのが、特に日本の音楽業界やアーティストにとっては相性の良いお金のもらい方だった。
そういう仕組みを長年かけて築いてきたはずなのに、この新型コロナでみんな焦ってしまって、自分たちの苦手なことをわざわざやろうとしている、というふうに僕には思えたんです。
後払いシステムって、やっぱり文化的な成熟度がかなり問われるような気がするんですよ。
日本にはチップを払うというような習慣も根づいていないわけで、さっきも相性って言いましたけど、もともとないものなんですよね。
だから何とか得意な形に、つまり前払いにどうにかできないかなというのがポイントとしてありました。
そしてふたつめが、何をもって「生」とするのか、ということですね。
オンライン上で言うと、「生」というものにふたつの捉え方があると思っていて。ひとつは、生中継というような本当の意味での「生」ですね。
それともうひとつが、同時ストリーミングという意味での「生」です。
ただその場合、配信されているものは映像作品ですよ、と。アーティストの過去ライブ映像作品をYouTubeのライブ配信で見せている状態ですね。
そこでの「生」というものの捉え方が、発信側も受け手側もボケている状態にあるのではないかと思ったんです。
録画作品であればクオリティーは担保できますから、ユーザーの満足度は上がる。そして同時視聴しているという体感もある。
見ているものは「生」じゃないけど、体感としては「生」という状態。そこのギャップをきちんとわかった上で、オンライン上での配信ライブだったり映像作品というものを捉えきれていないのではないか、というのを感じていたんです。
だから、とにかく「生」である意味、「生」である価値を追求しよう、と。
これまでライブハウスやホールでコンサートを観てきた人たちの、「やっぱ生最高!」っていう満足感は、果たしてクオリティーが高いだけのことだったのか?
音が良いとか照明が華々しいとか、「生」の良さってそれだけじゃないだろう、と。
最初にお話しした、先にチケット代としてお金をいただくマネタイズのやり方、そして「生」を追求したコンテンツ、そのふたつを落とし込めるかもしれないフレームが「#オンラインライブハウス_仮」だった、というわけです。
今後の公演情報はonlinelivehouse.jpで順次、発表されます。