イズミルとキャロルは、第二幕でしか絡みがないんです。

一幕でイズミルが出てくるのは、最初と最後のシーンだけで。イズミルは舞台に出ていない間に、自分の妹が殺されてしまうんです。

原作のコミックでは、妹が殺されたという悲しみや怒りは、物語の進行とともに募らせていくんです。だけど舞台では、その思いを舞台裏で想像しなきゃいけない。

そして、その思いを持って、一幕のラストに、“妹を思って、エジプトへ復讐に行く”という歌詞の『黒い翼が悲劇を運ぶ Black Wings Bring Tragedy』を歌うんです。

イズミルが舞台でその歌を歌っているとき、私は舞台裏にいるんですが、歌を聞きながら、

“うっわぁ…、イズミル、今日、すごく怒ってる…”

“今日は、悲しみと怒りを心に秘めて歌ってる”

“今日はいつもより、感情がめちゃくちゃ外に出ちゃってる”

とか。歌から感じとれるものが毎回違うんです。

私は毎回、そのイズミルの歌声を聞いて、二幕で初めて、イズミルの前に出るキャロルを作っていて。イズミルと出逢った後のお芝居を、どう進めていくか、あの歌で決めるんです。

だから『Black Wings〜』は、私にとってもすっごく重要な歌だったんです。

その話を、あるときマモ(宮野真守)さんに、話す機会があって。そうしたらマモさんも、

「そう! 『Black Wings〜』がすごく難しくって。二幕のイズミルをどう作るか考えながら歌うからすごく難しい 」

って、話してくれて。

「佐江ちゃんも舞台裏で、そういう思いで聞いてくれていて嬉しい」

って、『Black Wings〜』に、そういう思いを持っていることをお互いに知らなかったから。本当に偶然に、偶然が重なって、お芝居が成り立っていたんだなぁって。それを知ったときは、すごく嬉しかったです。

自分たちのこういう小さな“キャッチボール”がお芝居に表れることで、お芝居が変化していく。観ている方たちに、毎回、新鮮な気持ちで作品を観てもらえるようになる、きっかけのひとつになるのかなって、思いました。

今回はそれがすごく分かりましたし、やっぱり自分が出ていないシーンを無視するのは、役者として、私はできないことだなって思いました。

ーーそれは東京公演の頃からそう思っていた?

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